FUN'S PROJECT REPORT


イベント情報やクリエイターの働き方や市場環境など、クリエイターになりたい方が気になる情報をFUN'S PROJECTがレポートします!

FUN'S PROJECT REPORT #0052019.09.05

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より実践的なアニメーター教育を実現するため、老舗アニメ制作会社「動画工房」と大日本印刷が運営するDNPクリエイター共創サービス「FUN'S PROJECT」の共同により開発された新人アニメーター養成用オリジナル教材「アニメータードリル」。前回の記事ではその開発意図と概要についてお伝えしました。


新人アニメーター養成教材「アニメータードリル」の効果はいかに?「動画工房」の新人アニメーターが使った結果

今回はテスト運用を兼ねて実際にアニメータードリルを使用された動画工房の4名のスタッフの方々に、その効果についてのインタビューを実施しました。なお、テストに参加されたみなさんは全員この4月に動画工房に入社されたばかりの新人アニメーターで、3ヶ月分ある学習行程のうちおおよそ2ヶ月目までを終えた段階での体験と成果をお話しいただきました。

プロになったばかりだからこその忌憚なき意見はもちろん、今回のトレーニングを経ての感想や目指すアニメーター像など、将来の展望についてのお話も伺いました。栄えある若者たちがアニメータードリルをどう使い何を感じたのか。それではご覧ください。


■ご案内

本レポートに登場するFUN'S PROJECT COLLEGE「3ヶ月で動画マンの基礎を習得! アニメータードリル」の公開は終了しています。

■インタビューを受けてくださったみなさん

T.Tさん

(東京造形大学卒)好きなアニメは『NEW GAME!』

S.Kさん

(日本電子専門学校卒)好きなアニメは『NEW GAME!』

Y.Sさん

(多摩美術大学卒)好きなアニメは『少女革命ウテナ』(劇場版含む)

S.Hさん

(多摩美術大学卒)好きなアニメは『氷菓』『棺姫のチャイカ』等ノベル原作アニメ

■動画工房のフレッシュマンのみなさんのプロフィール

―アニメーターを目指したきっかけと入社の動機、目指すアニメーターについて教えて下さい。

T.Tさん:

元々はいちファンとしてアニメを見ていたのですが、次第に「この戦闘シーンがかっこいい」「この芝居がすごく好きだ」という見方に変わり、アニメーターに憧れを抱くようになりました。

大学の講義で『多田くんは恋をしない』などを手掛けたアニメーターのりょーちもさんにお話を伺う機会があり、その際に動画工房が作品を大事にしていて社内の雰囲気もとてもよいと伺い、入社しようと思いました。

河野恵美さんの描くカットがすごく好きで、リミテッドアニメーションでしか表現できない動きがかっこいいと思います。特に『shelter』という作品が印象に残っています。

S.Kさん:

高校3年の時にアニメに関する仕事がしたいと考え日本電子専門学校に入学しました。そこで映像に関して一通り学んだ上で、自分がやりたいことができるのはアニメーターだ、と分かったので、アニメーターを目指すようになりました。

動画工房を選んだのは、自分の好きな作風のアニメが多かったことと、自分がアニメを好きになるきっかけになった『NEW GAME!』という作品を手掛けていたからです。

目指すアニメーターは菊池愛さんです。『NEW GAME!』や『未確認で進行形』などの作品のキャラクターデザインが印象に残っています。

Y.Sさん:

小学生の時にTVで放送していた『崖の上のポニョ』のメイキングで波のシーンを作画しているのを見て「本当に人が手で描いてるんだ……!」とものすごく感動し、アニメの作画に興味を持つようになりました。大学では2年生、3年生、4年生の時にそれぞれ1本ずつ個人で短編作品を制作し、それをきっかけに思い切ってアニメ業界に飛び込むことにしました。

動画工房は元請け会社であることやキャラクターの芝居に注力していることなどに加え、最低保障額の設定があることなど待遇面も自分の希望する条件に合致していたので志望しました。

細やかな芝居が上手なアニメーターの方に惹かれます。最近見て感動したのは『逮捕しちゃうぞ』OVA版やTV版の松本憲生さんのお仕事です。先輩からおすすめされた過去の作品を順次見ているのですが、少し前のアニメの、目に優しいセルの質感が好きです。

▼Y.Sさんが在学中に制作した短編アニメーション作品の設定画

▼Y.Sさんが入社面接を受けた際のポートフォリオ

S.Hさん:

2歳の頃から絵を描くのが好きで、小学校の時に美大生の方とお話する機会があり、その時に自分のやりたいことを伝えたら「それならアニメーターだね」と言われ、そこからアニメーターを目指すようになりました。大学では3DCGやプログラミングを学んでいたのですが、それも高校の時に日本アニメーションさんへ会社見学させていただいた際に「アニメーターになるならどんな経験も無駄になることはないよ」とアドバイスを頂き、幅広い体験をしたいと思ったからです。

就職活動ではゲーム会社なども含めて広く検討していました。待遇を取るかやりたいことを取るか、と考えた上で最終的にやりたいことを選択しました。動画工房は面接も会社の雰囲気もとても面白く、採用通知をいただいてすごく嬉しかったです。

目指すアニメーターは馬越嘉彦さんで、絵に勢いがあるところが好きです。『蟲師 続章』で家が強風に飛ばされるシーンと、地震で色々なものが崩れていくシーンが印象に残っています。どちらも視聴者の感情を湧き上がらせるような動きでした。

▼S.Hさんが入社試験を受けた際のポートフォリオ

― 実際にアニメ業界に入る上でポートフォリオのどういったところを見ているのですか?

採用について:

動画工房ではデッサンとパース、動きに対しての探求心などに加えて、1枚の絵を描くのにどれくらい時間をかけたのかという点にも注目しています。アニメーターとして活躍する上で作画スピードも重要ですので。また、入社直後は多くの方が動画からキャリアをスタートしますが、その後はどんどんステップアップし、業界で永く働けるアニメーターになってもらいたいと考えています。そのため、その人が動画だけでなく将来原画マンとしてもやっていけるかという点からも見させていただいています。

■アニメータードリルの良いところ・難しいところ

―アニメータードリルに最初に触れた際の感想を教えて下さい。

T.Tさん:

きちっとした線が引けるようになるところがいいと思います。また、中割りの方法はネットでも情報が少なくどうしたらいいか分からない人が多いと思いますが、その情報が少ない動画マンのスキルの基礎をきっちりと教えてくれるので助かると思います。

S.Kさん:

自分が苦手とするところを見つけられるのがよかったです。アニメータードリルがあれば専門学校に進学する前、高校生の段階から中割りに関する知識の勉強や練習ができていたな、と思います。

―アニメータードリルのいいところは、他にどんなところがあるでしょう?

S.Hさん:

映像教材なので、普段なかなか見ることのできないプロのアニメーターの手元をじっくり見られるのが良かったです。講師の遊佐さんの手の速さなどもよく分かりました。もしアニメータードリルが学校にあれば、アニメ業界で求められるもののイメージが事前にできてよかったと思います。

Y.Sさん:

絵がブレていたりキャラクターの頭部が変形していたりといったことは、大学であれば個性や持ち味として評価されることもありますが、商業用アニメではNG。そういった、商業用アニメで基本となるアニメーションの在り方を学べたのが良かったです。

また、講師が動画用紙をタップだけではなくクリップも併用して止めていたのを見て「そんな小技があったんだ!」という発見がありました。そういったプロならではの技を見つけられる楽しみもありました。

―アニメータードリルの課題をこなす上で難しかったことはなんでしょう?

S.Hさん:

アニメーションの基礎は、基本だから簡単というわけではないので、最初の単元が簡単で徐々に難しくなっていくわけではないというところは最初戸惑いました。私の場合、一番最初の課題だったバウムクーヘン課題(年輪型の内側線と外側線の間の線を想像して等間隔に引いていく基本練習)が一番時間がかかりました。時間がかかるところが自分が苦手としているところなので、そこを重点的に何度も課題にチャレンジしました。

Y.Sさん:

アニメの表現にはロジックで説明しにくいものもあるので、そういったところは特に難しかったです。たとえば、講師の方が「雪をランダムに降らせましょう」と言いながらすごい速さで雪を描いていくのですが、どうやったらランダムに雪っぽく配置できるのかがまず分からないんです。そういったところはとにかく先生の描き方を繰り返し再生して見て、真似て感覚を覚えました。

■アニメータードリル課題のビフォー・アフター

今回、みなさんが課題にて制作した動画を実際に見せてもらうことができました。以下、S.Hさんのアニメータードリルの課題を通じて、どのようにスキルアップできたのかについて見てみましょう。

S.Hさんのバウムクーヘン課題1回目(NG)

S.Hさんのバウムクーヘン課題1回目(OK)

S.Hさんのバウムクーヘン課題2回目(OK)

S.Hさんが「一番時間がかかった」というバウムクーヘン課題ですが、回を経るに従って線の太さや間隔の統一感が徐々に向上しているのが分かります。また、所要時間が23分、115分、128分と徐々に上がっているところから、1本1本の線を丁寧に引くスタイルが徐々に身についていることが感じられます。

S.Hさんの丸から三角への変形課題(1回目)

S.Hさんの丸から三角への変形課題(2回目)

丸を三角へと変形させる課題では、2回目のほうが中割りの形状がよりはっきり描けるようになり、その結果アニメーションがスムーズに見えるように成長しています。一方、所要時間は352分から465分と増えてしまっていますが、教材開発担当者の方によると、一度丁寧な線が引けるようになれば、今後このトレーニングを繰り返すことでより速く正確な線を引けるようになる、ということです。

■新人アニメーターのみなさんの将来の展望

―それでは最後に、みなさんの将来の展望について教えて下さい。直近の目標だけでなく、少し先の希望でも構いません。

T.Tさん:

今は現状が精一杯なので将来について考えるのは難しいのですが、なるべく早くアニメ業界で活躍できるようになりたいと思います。

S.Kさん:

苦手なものをなくし、何でも描けるアニメーターとして活躍したいです。そしていつかは動画検査かキャラクターデザイナーとして活躍したいと思います。

Y.Sさん:

まずは手堅い仕事のできる原画マンになりたいです。自分が過去に見たアニメの誠実な画作りによって今の自分があるので、自分もその誠実さを裏切らないような画面を作りたいと思います。

S.Hさん:

小説の文章から映像を想像するのが好きなので、いつかノベル原作のアニメを手掛けてみたいです。具体的には、林トモアキ先生の『戦闘城塞マスラヲ』という作品が勢いがあって魅力的なので、テンポのいい映像にしてファンにも新規の方にも楽しんでもらえたら、と10年間毎日思っています。

―ありがとうございました。

■教材開発スタッフ・平松岳史さんのコメント

アニメータードリルはアニメーションの基礎である動画のスキル習得を通じて、アニメーションのセンスを身につけるきっかけになるようにも構成されています。昨今「将来AIが人間の仕事を奪うのでは?」と言われていますが、パターン表現ではない描き手のセンスによる表現や雰囲気にこそ人は感動する、ということがアニメにおいてもあると思います。ドリル教材による反復トレーニングを繰り返し、より速くイメージ通りの線を引けるようになることでこそ育まれるセンスもあるので、ぜひご自身の強みになる技術を見つけて、様々なセンスを習得していって欲しいと思います。

また、動画工房以外のアニメスタジオさんを目指す上でもアニメータードリルはきっと有益なものになると思いますのでぜひご活用ください。そしていつか同じアニメ業界を盛り上げる仲間としてお会いした時に「アニメータードリルで勉強しました!」と教えていただければ、教材開発者としてそれほど嬉しいことはありません。

以上、今回は動画工房の新人さんによるアニメータードリルの体験談を中心にお届けいたしました。次回の記事ではアニメータードリルの3ヶ月の工程を終えた時点でインタビューを行い、どのようにスキルアップできたのかについて実例を交えて具体的にレポートします。お楽しみに!


(取材・文:いしじまえいわ 撮影:浅野誠司)


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