FUN'S PROJECT INTERVIEW
FUN'S PROJECT INTERVIEWではクリエイターの方々に独自インタビューを行い、未来のクリエイターの指針になるべく創作の原点や作品への思いを熱く語っていただきます。
#003 アニメーター 一色あづるさん2018.04.12
同期で一番下手で入ったアニメ業界。アニメ制作は正解がないから、だから何度でもやりたくなるの。
“同期で一番下手で入ったアニメ業界。アニメ制作は正解がないから、だから何度でもやりたくなるの。”
謙虚にそう語るのは、現在フリーランスで活動を続けている、アニメーター・映像作家の一色あづるさん。
代表作「風」で上海国際アニメーションフェスティバル入選をはたすなど、いくつもの作品を世に送りつづけています。
そんな彼女の業界に入ったきっかけから、今後の目標までを伺いました。
アニメ業界に入ったきっかけは何だったんでしょうか?
もともとはアニメ業界を目指していたわけじゃなかったの。
学生時代の美術の先生とウマがあってね、よく話しをしていたんですけど、私はOLには向いていないと思っていたから。17歳の時にその先生の紹介で東映動画を見学に行って、アニメーターが面白そうだったので、一年間、何回か教わりに行って、試験を受けました。
他に受けていた人はアニメーター志望で絵がとても上手い人ばかり。絶対ダメだと思ったんだけど、ご縁があって入社することができました。同期の中で一番下手で入社しましたから。入ってからいろいろと勉強をしましたよ。
当時新宿の紀伊國屋書店で河原淳さんがデザインの講座をしていたんです。絵本作家さんやイラストレーターさん、デザイナーさんが講師になっていて、それに通いましたね。あと油絵も、会社に入ってから1年半くらい習ったかな。
アニメーションをどうやって作るかも、全く知らなかったし興味も持ったこともなかった。そんなスタートだったから、当時見るもの感じるものすべてが面白かったですね。
そのスタートからここまで続けてこられたんですね。
今思うと、わからないから続けて来られたのかもしれませんね。
私は小さい頃から好奇心旺盛でね、だから簡単にできてしまうことはすぐ飽きてしまっていたんです。でも、ものづくりってゴールがないし正解もない。だから何度でもやりたくなるんですよね。絵が描けないところからからスタートしているから、できた気がしなくて今も続けていられるのかもね。
同じ時期に仕事を始めた人で、今も現役の人はほぼいないんです。私は変わったキャリアだけど、ここまで続けて来られたというのは、幸せなことだと思いますね。入社当時の上司や、周りの演出家さんは、私が今も続けているのを驚くでしょうね。
今現在のお仕事について教えてください。
少し前までは、NHKの子ども向け教育エンターテイメント番組等を作っている会社から依頼を受けて、1分くらいのアニメ動画を作っていました。
最近は、知人の紹介で「ぴったんこ!ねこざかな」という作品を作っています。絵本が原作の3分弱の作品なんですけど、シュールなのよ。ねこの中に魚が入って陸で探検したり、逆に海では魚の中にねこが入ったりって面白いんです。私は今絵コンテを描いて原画を描いて、そして演出までをやっています。自分の作品は、自分でシナリオを書いて作っていますけど、人が書いたシナリオを絵コンテにして演出までするのって初めてなんです。何分の動画で何カットにするかも全部私が決めなければいけない。紹介してくれた知人に、「私にできるかなぁ」って相談したら「大丈夫、大丈夫」って(笑)だから日々勉強しながら自分なりに一生懸命作っていますよ。
私は依頼いただいた仕事は、自分の技量の範囲でやればいいと思ってやってきました。締切までに自分のできることを精一杯やるだけ。ダメなら次の仕事が来なくなっちゃいますけど、自分に期待いただいたことを返していく、その積み重ねでここまでやってきましたね。
一色さんはアニメーション創作グループ「G9+1」の一員でもいらっしゃいますね。
名だたる巨匠の中に入れていただいて、本当に光栄に思っています。仲良くさせてもらっているけど皆さんすごい方ばかりですからね。女性だったから入れたのかな?ラッキーだなと思っています。
「G9+1」は、皆お互いに認めあっている関係性なんです。私はすぐ思ったことを口にしちゃうから、喧嘩になったりもするんですけど、皆優しいわよ。人との巡り合わせに、私は本当に恵まれているなあと感じますね。
一色さんがやりがいを感じる瞬間はどんなときでしょうか?
やっぱり作った作品がハマったときですね。
自分だけで正解を決めることってとても難しいから、仕事のお相手が、「コレでいこう」って言ってくれたときはすごく嬉しいです。
作品を作るときって、あれこれ考えるんですよ。練って練って、何度もやり直したりするんだけど、意外と最初に浮かんだものが一番良かったりするのよね(笑)私はとっても不器用だから、「いいかな!」ってモノが作れたときはとてもやりがいを感じます。
仕事のジャンルでいうと、CMは肌にあっているなって思いますね。同じことばかりしているとすぐ飽きちゃうから、いつも新しいことをしていたいの。1分くらいの作品を、いつもまっさらな気持ちで作っていくのが好きですね。同じキャラクターをずっと描き続けるのは正直苦手なのよ(笑)
仕事の進め方にポリシーなどはありますか?
締切の存在ってとても大事だなって思いますね。
私は締切ギリギリで仕事をする癖があるの。だから周りをヒヤヒヤさせたりご迷惑おかけしちゃうこともあるんですけど、いくらでも時間があるとなかなか仕事ってできないですね。
昔は根を詰めて、3日寝ずに描いていたこともありました。体力は有る方かもしれません。体力もアニメーターにとって大事な資質ですからね。締切があるから、必ず終わらせなくっちゃ、って仕事が進むんじゃないかしら。そしてある程度仕事だって割り切って向き合うこともありますね。こだわりがありすぎると、終わらないこともあるから。
東映のあとはフリーで働かれていますよね。
そうですね、東映動画時代も上手くなりたくてアニメ制作にまつわるアルバイトをたくさんしていました。だからフリーになったあとも仕事はいろいろといただけましたね。 アニメ制作会社「白組」の社長で、「G9+1」のメンバーでもある島村(達雄)さんには、東京コマーシャルフィルムにいらっしゃる時代からお仕事を紹介してくださったり、ずいぶんとお世話になりました。今の白組を立ち上げるときにも、一緒にやらないかってお誘いいただいたんだけど、結婚していましたし、そして私は自由な環境が好きだから、フリーのままお仕事をお受けしていたの。今こんなに大きくなっちゃって、あのときお断りしなければ良かったかもしれないわね(笑)
そしてその後、上海国際アニメーションで入選された代表作「風」を作られましたね。
当時何本か一緒に仕事をしていたレイというレーザー光線によるショー演出を制作する会社(当時)が、機材を貸してくださったおかげもあり制作ができました。私、絵が描けないながらに自主制作にとても興味があったんですよね。広島の映画祭では落選してしまったんですけど、「G9+1」の福島(治)さん、古川(タク)さんとお話をしたのをきっかけに、上海国際アニメーションに出展してみたんです。そして賞をいただくことができました。
授賞式で初めて上海に行ったんですけどね、世界中から才能が集まる盛り上がりを体験して身震いしたのを覚えています。「日本だけを見て留まっていちゃダメだな、ここにずっと居たいな」って思ったんですよね。
昔のこと聞かれると、色々思い出しますね。話していると、自分でもあのときこんな風に考えていたんだって気づかされたり。面白いわね。
一色さんのようなアニメーターを目指してる人に向けてメッセージはありますか?
好きだって気持ちってとても強いんですよ。好きでやり始めたことは続けられる。そして続けていくことはとても大事なことです。
昔は10年はやってみなきゃ一人前じゃないって言われていましたけど、今はもっと短期間ですごい作品が作れちゃう時代。でも、作品の中身にはその人に生き方が反映されるんです。だから付け焼き刃はバレてしまう。最低5年くらいは辛いことがあっても我慢して続けてみてください。そうしたら仕事はどんどんと面白くなっていきますよ。
また、新しいものを常に試し続けていってほしいですね。
私がレーザーの会社でお仕事をしていた当時はWindows95の全盛期。そのとき一人だけmacを使ってる人がいたんです。「これはすごいよ」って言われて、私も見よう見まねで使ってみたりしました。別にコンピューターが得意なわけではないんですけどね、それでも不器用ながらに色々試してた。いずれ、コンピューターでアニメーションを作る時代が来るんだろうなって感じたからです。
当時コンピューターに拒否反応を示している方はたくさんもいましたけれど、今コンピューターを使えないと、仕事がなかなか来ないでしょう。私は下手ながらに使えるから、今もお仕事ができています。自分のやりかたに固執せずに、新しい技法とか道具を試すのもいいと思いますね。
一色さんが新しく試したいことはありますか?
次はタブレットを覚えたいですね。
新しいことを始めると自分の世界が広がっていきそうな感覚があります。だから世の中の変化には常にアンテナを張っておかなきゃいけないなって思いますね。絵の中の世界だけを見ているのではだめ。広い視野を持てたら、それが作品にも反映されると思っています。
一色さんが、すごいなと思う方や、憧れている方はいらっしゃいますか?
素晴らしいなと思う人はたくさんいますよ。
今、大ファンなのは冠木佐和子さんですね。
エロティックな雰囲気のアニメーションを作られるんですけど、とても美しくて、さらにユーモアもあるんです。表現の仕方に衝撃を受けてばかりですよ。理解できないとか、卑猥だなんていう人もいるみたいだけれど、私は天才だと思っています。あとは、山村浩二さん。彼も別格だと思いますね。
冠木さんとご親交はあるんですか?
上映会などタイミングが合わなくてあまりお話ししていないんですけど、Facebookではお友達になっています。多摩美術大学の教員をされている野村辰寿さんとFacebookでやり取りしてたときに、間違えて友達申請のボタンを押してしまって、それで冠木さんとやりとりしてお友達になったの。これもご縁かなって思ってます(笑)
これまでさまざまなチャレンジをしてこられたと思いますが、次の目標はなんですか?
難しい質問ね…やりたいことはいっぱいあるんですよ。でもね、私何年も先のことを考えるのは苦手なの。計画性がなくって(笑)それに生きているといろんなことが起きるでしょう。計画しすぎてもしょうがないかなって思っているの。
本当は60歳までに仕事を落ち着かせて、ゆっくりしようって思ってたんだけど、今もまだ仕事をさせてもらっていますしね。だから今いただけている仕事を、ご迷惑をかけないように精一杯こなしていくことが目標かな。
娘がまだ小さかった頃、「ママ、死ぬまで仕事やりなね」って言われたことがあったんです。本当にそうなってしまうかもね(笑)人生、そんなに欲張ってもだめでしょ。私、目の前にあるものの中から、やりたいことや楽しいことを探すのは得意なの。楽しいことを探せれば飽きませんからね。これからも体が動く限り、ずっと楽しく仕事がしたいですね。