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中川翔子のポップカルチャー・ラボ連載最終回

Photo : Shuya Nakano Styling:Aya Omura Hair and Make:Toh Text by Takanori Kuroda Edit:Masayuki Shoji (honcierge)

アニメクリエイター、イラストレーター、ゲームクリエイター、声優など、日本が誇るポップカルチャーの領域で活躍している方々と、中川翔子による一対一のトークセッション。最終回となる今回は、中川翔子の単独インタビューをお届けします。これまでの連載を振り返りつつ、トップクリエーターたちの言葉が中川にどのような影響を与えたのか。今、中川はどんなことに興味を持っているのか。たっぷりと話してもらいました。

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中川翔子
女優・タレント・歌手・声優・イラストレーター。
東京2020大会マスコット審査員や、2025年万博誘致スペシャルサポーターなど、国家プロジェクトに参加するなど、国内外に向け広く活躍。 音楽活動では7/10に小林幸子&中川翔子「風といっしょに」(7/12公開『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』主題歌)をリリース。リリースイベント「ポケだちツアー」を全国各地で開催中。 アメリカ・アジアでライブ出演するなど、アーティストとしての人気は海外にも広がっている。
>>しょこたんねっと

「描きたいから」の熱量で突っ走るくらいの方が、きっと伝わる

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─『中川翔子のポップカルチャー・ラボ』は今回で最後となりますが、振り返ってみていかがでしたか?

中川翔子(以下、中川)
心から会いたいと思っていた方々に、次々とお会いできて本当に嬉しかったです。ずっと憧れていた方たちばかりでしたので、毎回「ああ、本当に実在の人物なんだ!」という感覚と同時に、「普通に人間なんだな」という面もうかがい知れたのが楽しかった(笑)。とはいえ、「何でそんな発想ができるんだろう?」と、毎回驚かされるばかりでした。

─対談の時、中川さんは必ずと言っていいほど「どんなものを食べているのですか?」という質問をされていましたね(笑)

中川
そうでした(笑)

アーティストさんとかクリエーターさんって、私にとっては芸能人よりも会えない人たちじゃないですか。今話したように、まずは「実在するんだあ!」という驚きがあるので、そういう方々でも物は食すのだろうか、ということを確かめたかったのと(笑)、そんな方たちの血肉になっているモノがなんなのかを単純に知りたいという好奇心だったんですよね。

─皆さんの答えも千差万別でしたね。

中川
本当に!

食にまったく興味がない方もいれば、「甘いモノ大好き!」という方もいて、とても興味深かったです。思い切って尋ねてみて良かった(笑)

─それと、クリエーターさんたちが使っているツールについてなど、テクニカルな質問を多くされていたのも印象的でした。

中川
私は趣味でしかないのですが絵を描いていて、憧れの方の塗り方や、画材などを見たり真似したり、まずはカタチから入るのが大好きなので……(笑)。思えば小さい頃から、憧れの漫画家さんが使っている画材を買っていたし、デジタルに世の中が移行し始めた時も、例えばいとうのいぢさんが使っているのは普通のPhotoshopで、なのに一体どうやったらあんなニュアンスが出せるんだろう?って。全然わからないからハウツー本を買ってきて、何となくレイヤーの意味だけ分かってきて……みたいなことをしていたんです。

それでもやっぱり、髪の毛の「塗り」がのいぢさんみたいにはどうしてもならない。既存のペンでいくらやっても上手くいかなくて、似せようと思って試行錯誤を繰り返しても、やっぱりちょっと違う。で、ご本人にお会いしたときに直接聞いてみたら、「ああ、気分でやってるだけなんですよ」って言われて拍子抜けしたことがありました(笑)。『ポップカルチャー・ラボ』で、岸田メルさんにお会いした時もそんな感じでしたよね?
第6回 岸田メルさん

─「筆選びも色選びも感覚でやっている」っておっしゃっていましたね。

中川
ソフトもフリーウェアだったりして。周りの人たちはみんな、必死になってハウツーを知りたがっているのに、本人は感覚だけでやってるって……そこに越えられない壁を感じますよね。

ずっとお会いしたかったヒグチユウコさんにもびっくりしましたね。作品はものすごく大きいのかと思ったら意外と小さくて、しかもめちゃめちゃ細かくて! 原画を見せてくださったじゃないですか。鉛筆でアタリを取るだけで、あとは和紙にほぼ一発描きしてるんですよね。しかも『世界堂』とかで普通に売ってるミリペンを使っていて。「肉筆」で残っていることの偉大さ、尊さも改めて思い知らされました。
第5回 ヒグチユウコさん

─そういえば中川さん、対談の中でヒグチさんからミリペンをもらっていましたね?

中川
早速家に帰って描いてみたんだけど、全然ああいうふうにはならないんですよ……!(笑) だから、選ばれし者が使うことによって道具にも魔法がかかるのだなって思いました。あと、アナログの良さってどこへでも持ち運んでいつでも描けることにあるなと、ヒグチさんとの対談で思ったんです。

ヒグチさんのお話を聞いていて、お仕事への姿勢も刺激になりました。好きという絶対の中にいるのは変わらないまま、「仕事だからしんどい」とか「仕事だからこなす」ということもせず、自分の熱量の方が、お仕事としてのオファーよりも乗っかっていましたよね。

─映画『サスペリア』に絶対関わりたいっておっしゃっていて、ちゃんと実現されていましたよね。

中川
ほんと、カッコ良すぎです。どんなに絵を描くのが好きでも「仕事」となってしまうと、趣味でやっていた時とはどうしても違ってきちゃうものなのかなと思っていたんですけど、もうすべてに対して全力を注ぎ込んでいらして。私がビームスと共同でプロデュースしているブランド、「mmts(マミタス)」でもコラボさせていただいて、私の歴代の飼い猫たちを描いてもらったのですが、それぞれの猫の特徴を見事にとらえてくださって。一生の記念になりましたね。

─そういう方たちの熱量に触れたことは、中川さん自身にどんな影響を与えましたか?

中川
影響といっても自分の中で感じていて、きっと誰も気付いていないことだとは思うのですけど……(笑)。例えば今年、子供たちに向けてのファミリーコンサートを初めてやったときに、スクリーンに絵本を投影しながら音読するときに、絵本って大体10枚とか20枚だったりするんですけど、何を描こうかなと思って描き始めたら止まらなくなって80枚描いてしまって。

─すごい!(笑)

中川
「まあ、このくらいでいいか」じゃなくて、「楽しいから」「描きたいから」の熱量でガーッと突っ走ってしまうくらいの方が、きっと伝わるじゃないかと思いました。というか、そういうモードでやらなきゃダメだよなって思えるようになったのは、対談でお会いした方たちの影響なのかなと思います。

─他に、印象に残った方は?

中川
AC部さんは、本当にクレイジーな方たちなのだろうなと思って覚悟していたのですが(笑)、お二人はこざっぱりとした風貌で。そこにまず驚きました。でも、よくよくお話を聞くと、会話の端々に「え、なんで?」っていう瞬間がたくさんあって。「扁桃腺がもともと弱いんで、喉ちんこに興味があって描いただけなんですよ」みたいな(笑)。もうそれだけで問いただしたいこと100個くらいありましたよね。そういう、突き抜けたところで勝負している人たちってやっぱりカッコいいなあと思いました。
第4回 AC部

中川
あと、岸田メルさんは実際に今の女子高生たちのトレンドなんかもちゃんとリサーチしているとおっしゃっていたのが印象的でした。イラストの流行り廃りが以前よりもどんどん速くなっているから、そこで生き残っていくだけでもきっと大変なことであろうに。

─インプットに貪欲な方たちばかりでした。

中川
以前、野沢雅子さんと対談させていただいたとき、「声優として大切にされていることはなんですか?」とお聞きしたら、「アニメのことだけ考えるのではなく、映画や舞台を観たり、本を読んだり、人と話したりテレビ観たりすること」とおっしゃっていて。「全部が役に立つんだよ」と言ってくださったんですけど、それは今回の対談でも、ほとんどの人がされているような気がしました。岸田さんもそうですし、にしださんも「何でもメモに書き留めておくと、それが後で役に立つこともある」っておっしゃっていましたし。
第7回 にしだあつこさん

─そういえば『ポップカルチャー・ラボ』リニューアル前の第1回目で手塚眞さんと対談されたとき(外部サイト)も、「父(手塚治虫)は漫画だけでなく野球も落語も大好きだった」とおっしゃっていましたよね。

中川
そうでしたね。人間って限りある命ですし、生きている間でどのくらいのことを吸収できるか、ある意味では戦いのようだなと思うんですけど、「知らない」「興味ない」で切り分けちゃう状態から早く抜け出して、どんなことでも「すごいなあ!」「面白い!」と思える気持ちをキープし続けることが大切なのかなと思いました。私自身、今まで興味がなかったことには一切興味なかったんです。でもクリエーターの方たちって、いろんなところにアンテナを張っていて。結構、意外なことにハマっている方も多かったのが印象的でした。自分もそうありたいなって思いましたね。

─ちなみに中川さんが、今ハマっているのは?

中川
カラーインクの画材集めにハマっていますね。今までずっとデジタルで作画をしていたんですけど、いつか猫の絵とかを描きたいなってずっと思っていたんです。でも「いつか」とか言ってたら、ずっとやらないままだぞと。何かに発表するとかじゃなくても、「生きた証」として残しておくためにも木とか空とか猫とか、時間があるときに描いています。久しぶりに「水彩画用紙を買う」というところから始めてみたのが楽しくて。普通の色鉛筆よりも、硬めの色鉛筆で描いた方が紙の質感が出ることを知ったりして楽しんでいます。

─なぜカラーインクに興味が湧いたのですか?

中川
きっかけは、父の実家を整理して要らないものは処分するから、欲しいモノがあったら取りに来てと言われて。それで行ったら父が描き残した大量の作品があったんです。「生きた証」を残しておきたいと改めて思ったのは、それにも触発されたのかもしれないですね。で、そんな父の絵とともにカラーインクも出てきたんです。それを見てたら昔、『りぼん』に連載していた漫画家の先生が「Dr.Ph.Martin’s(ドクター・マーチン)」というアメリカで創業したカラーインクのブランドを愛用していると言っていたのを思い出したんです。

今、Dr.Ph.Martin’sって日本では取り扱っていなくて、店頭にあるもの以外はないらしいんです。実は昔集めてたことがあるんですけど、もう一度集め始めたら色の名前とかすごく可愛いんですよね。「サンセットレッド」や「サンセットイエロー」「サンセットピンク」など、サンセットだけでもいろいろある(笑)。今まで「緑」ってあまり好きではなかったんですけど、すごく綺麗な緑もたくさんあることを知りました。「この緑は青に近くて可愛いな」とか、久しぶりにデジタルじゃなくてアナログで作業する楽しさを、地味に味わっています。『世界堂』通いも楽しいんですよね。

─そういえば連載中は、アナログで描くことに対する興味も強くお持ちなのだなと感じました。

中川
そうなんです。奥浩哉先生(外部サイト)のあの緻密な漫画って、絶対デジタルに違いないと思っていたら、アナログとデジタルを融合させているとおっしゃっていたじゃないですか。街の風景などはデジタルを駆使して細かく描き込んでいるけど、人の絵は必ず奥先生が墨汁とペンで描いているって。「ええ!? あの人間たちってすべて手描きだったのか!」と。心震えた瞬間でしたね。デジタルってなんでもできると思いきや、肉筆じゃないと絶対に描けないニュアンスというモノがある。そのことを聞いてからは、今やっているイラストの連載もオールデジタルじゃなくて、たまにアナログを入れていこうかなとか。ちょっと思うようになってきましたね(笑)

で、そんなふうに考えていたら、新しいアルバム『RGB ~True Color~』のジャケットも、「自分で描こう」という気になって。幼少期と思春期と現在・未来を描くことにしました。2日間くらいずっと集中して作業していたのですが、パソコンの中で絵を大きくしたり小さくしたりしながら描くことよりも、手を使って描いている方が楽しかったんですよね。消しゴムを使いすぎると画用紙が傷むから、下描きは最小限にしようとか、そんなことを考えてたら緊張感もあって。

─『ポップカルチャー・ラボ』の対談は、中川さんの活動のさまざまなところで影響を与えているのですね。

中川
そうですね。それと、父の遺品を掘り出していたら、ガラクタみたいなものを集めるのも楽しくなってきて(笑)。「画材集め」「ガラクタ集め」「絵を描くこと」が今、自分にとって夢中になれているもののトップ3かもしれない。

それが今後、なんの役に立つのかなんてまったく分からないんですけど、楽しいからやってきたことが後々生きてくるというのは何度も経験しているので。そんなふうに思えるようになったのは、自分が歳を重ねてきたということももちろんあるんですけど、この『ポップカルチャー・ラボ』で色んな人に出会って、たくさんの刺激を受けてきたからこそだなって思って感謝していますね。

─では最後に、クリエーターを目指す方たちにメッセージをお願いします。

中川
私もそうだったんですけど「こんな作品、人に見せるの恥ずかしいな」とか「もう少し上手くなってから……」みたいに、自分でフタをしちゃうのはもったいないと思うんです。そんなことまったく振り返りもせず、ハガキに絵を描いて投稿して採用された喜びもあって。どちらも経験してきて思うのは、自分の気持ち次第なんだなと。

今って、インターネットで世界中の人とつながれるし、自分の作品を不特定多数の人たちに簡単に観てもらえる時代になったじゃないですか。それを思うと自分の「ちょっとした勇気」が人生を変えるかもしれない。「いい絵が描けた!みんなに見て欲しい!」というモードになった時は、そんな自分を止めない方がいいと思いますね。私もブログを始めたばかりの頃、衝動だけで動いていたことが、その先の未来をずっと助けてくれているんです。だからこそ今、夢中になれることに全力でぶつかっていって欲しいですね。
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中川翔子
女優・タレント・歌手・声優・イラストレーター。
東京2020大会マスコット審査員や、2025年万博誘致スペシャルサポーターなど、国家プロジェクトに参加するなど、国内外に向け広く活躍。 音楽活動では7/10に小林幸子&中川翔子「風といっしょに」(7/12公開『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』主題歌)をリリース。リリースイベント「ポケだちツアー」を全国各地で開催中。 アメリカ・アジアでライブ出演するなど、アーティストとしての人気は海外にも広がっている。
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