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中川翔子のポップカルチャー・ラボ連載第6回-イラストレーター岸田メル

Photo : Shuya Nakano Styling:Aya Omura Hair and Make:Toh Text by Takanori Kuroda Edit:Takuro Ueno (Rolling Stone Japan)

クリエイター共創サービス「FUN'S PROJECT」がお送りする連載企画。中川翔子さんと多彩なゲストによる、クリエイターの「こだわり」にフォーカスしたトークセッションを毎回お届けします。第6回のゲストはイラストレーターの岸田メルさんです。

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中川翔子
女優・タレント・歌手・声優・イラストレーター。
東京2020大会マスコット審査員や、2025年万博誘致スペシャルサポーターなど、国家プロジェクトにおいて重要な役割を務めるなど、国内外に向け広く活躍。
音楽活動ではシングル「blue moon」がオリコンデイリー4位を獲得。
アメリカ・アジアでライブ出演するなど、アーティストとしての人気は海外にも広がっている。
5/5バースデーライブ@豊洲PITで開催予定。
>>しょこたんねっと

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岸田メル
イラストレーター/キャラクターデザイナー。五代ゆう『パラケルススの娘』(MF文庫J)のイラストでデビュー。ガストの人気ゲームシリーズ「アトリエシリーズ」のキャラクター・デザインに抜擢され、『ロロナのアトリエ~アーランドの錬金術士~』『トトリのアトリエ~アーランドの錬金術士2~』でその名を広く知られるようになり、いま最も注目されるイラストレーターの一人に。その透明感のある色彩をもった絵柄は、男女問わず熱狂的な支持を集めている。
http://kishidamel.tumblr.com/

「感覚」で描くという岸田メルのデジタル制作環境

アニメクリエイター、イラストレーター、ゲームクリエイター、声優など、日本が誇るポップカルチャーの領域で活躍している方々と、中川翔子による一対一のトークセッション。今回のゲストは、『ロロナのアトリエ ~アーランドの錬金術士~』や、『BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣』などのキャラクター・デザインを手がけるイラストレーターの岸田メルさん。透明感のある美少女を描かせたら右に出る者がいない、彼の作風はどのように培われてきたのでしょうか。

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中川翔子(以下、中川)
メル先生には以前にも対談させていただいて。私が一方的に先生の大ファンで、お使いになっているペンやソフトを知りたくて、パソコン持参で会いに行きました。
岸田メル(以下、岸田)
そうでした。あれは5年くらい前になりますね。
中川
覚えていてくださってありがとうございます。久しぶりにお会いしましたが、シャツとかお召しになっていると相変わらず誠実かつ実直そうな風貌ですよね。でも、ネットに出回っているのは女装とかコスプレばっかりで。
岸田
あははは。そうなんですよ。僕はちょっと二面性が激しくて。
中川
そんなことをオープンにおっしゃっているのも最高です(笑)。作品の方はというと、この数年の間にメル先生ワールドがますます進化されてますよね。『BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣』のキャラクターたちも最高に美しくて……。
岸田
ありがとうございます。中川さんの口から「BLUE REFLECTION」というワードが出ただけでも僕は満足です。
中川
そんな(笑)。あれからお元気ですか?
岸田
はい。ただ、5年も経つと加齢に伴う体力の衰えは感じますねえ。絵を描いていて腰が痛くなったり背中が痛くなったりは、机などで工夫しているのであまりないんですよ。それよりも、もっと大元の基礎体力や精神力が問題で。ちゃんと定期的に運動しないとダメですね。若い頃は2徹、3徹も当たり前だったんですがもう無理。絵描きの徹夜って、ものすごくエネルギーを消耗するんです。それで死んでいくやつもいるから僕はやりません。「締め切りよりも命が大事」というふうに、働き方が変わりましたね。
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中川
すごく大事な話をいきなり聞いてしまいました(笑)。先日、藤子不二雄A先生とお会いする機会があったんですけど、84歳でも夜中までガンガン飲んでらして。一昨年くらいまで連載も持っていらしたんですよね。
岸田
すごいですねえ!
中川
「なんでそんなに元気なんですか?」って聞いたら、「楽しいと思うことを適度にやって、リラックスすることだよ、ワハハハ!」っておっしゃっていました。だから根を詰めて仕事をし過ぎないほうがいいのでしょうね。メル先生には、唯一無二の美しい女の子を一枚でも多く世に残して欲しいので長生きしていただかないと。
岸田
「飲み歩いている」というところは藤子先生と同じかもしれないですね、僕もお酒でカバーしています。精神は癒されてますが、臓器はどうなんでしょうね……いつまで出来るのかなって。
中川
(笑)。メル先生の絵のすごいところは、どんだけ小さなサムネイルでも先生の絵だと分かること。今やデジタル技術やネットがどんどん発達して、プロとそうじゃない方の境界線も曖昧になっていく中、メル先生の絵はひときわ輝いていて。5年前の対談で「どういうふうに色を選んでいるんですか?」ってうかがったら、「いや感覚です」っておっしゃっていて。
岸田
そうでしたっけ(笑)。
中川
筆選びとかまで「感覚」っておっしゃってたのが、とにかく衝撃だったんです。
岸田
なんか、イラストレーターって2パターンあると思うんですよ。僕みたいに適当にやっている人と……
中川
適当ではないですけどね!(笑)
岸田
ちゃんとパレットを作って、イチから「自分らしい色」を調合したり、ブラシなんかも自分なりにカスタマイズしたりしてる人がいて。僕もそういうの憧れるんですけどね、でも感覚で描いているほうが楽しいというか。手間暇かけてると、かったるくなってくるんです。
中川
ちなみに、使っている機材は5年前から変わっているんですか?
岸田
機材が一番変わったかな。当時は液晶タブレットを使っていたのですが、今はPCとの一体型の「Wacom MobileStudio Pro」というのを使ってて。解像度4Kのモニターが液晶タブレットとして搭載されたウィンドウズなので、それさえあればどこでも仕事が出来るんです。逆に海外にいても仕事をしなくちゃいけないんですけど(笑)。
ちなみにソフトは、「ペイントツールSAI」という5000円くらいのシェアウェアから、4Kに対応した「SAI ヴァージョン2」というベータ版にしました。まだ製品版が出ていないんですよね。僕の周りのイラストレーターは、「Clip Studio Paint」という「IllustStudio」の進化系を使っている方が多くて、それも4Kには対応しているんですが、自分の肌に合うのはSAIのベータ版なんですよね。
中川
SAIのどんなところが気に入っているのですか?
岸田
2009年くらいからずっと使っているので、あまり考えずに操作できるところですかね。書き味はどれもそんなに変わらないし、調整すればどのソフトでも自分に合った描き味になるとは思うんですけど、ちょっとでも時間を効率的に使おうと思ったら、勝手を知ったソフトを使うのが一番です。
中川
先生の絵って、あまりデジタルっぽくなり過ぎず、それでいてアナログでは出せないような、絶妙な色彩感や透明感があるんですよね。しかも女の子だけじゃなく、男の子もたくさん描いていらして、どの角度から見ても可愛らしいんですよ。『BLUE REFLECTION』も、髪のサラサラ感とか人類を超越したタッチです。
岸田
そんなに褒められたことないですよ!(笑)
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中川
いくら眺めても、意味が分からないんですよ。あと、メル先生の描く膝小僧と、膝の裏側がとにかく大好きです。
岸田
やっぱ見ているところが違いますね。フェティシズム……(笑)。
中川
描いていて、一番テンションの上がるパーツはどこですか?
岸田
まさに、膝の頭ですね。どうしてだろう……生々しいからですかね。僕は割と、他のイラストレーターが省略しちゃうようなところをあえて残すのが好きで。例えば指の、節くれ立った部分に存在感を感じるというか。
中川
わかります!
岸田
ただ、二次元の絵が好きな人って、そういう生々しさを好まない人が多いから、クライアントに嫌がられることも結構ありますね。
中川
ええ、そうなんですか? あの生々しさがいいのに! 触れそうで、でも触ってはいけないような神聖さもあって。ちょっとピンクに塗ってあるのもたまらないんですよね(笑)。
岸田
確かに。白い肌に赤味が差してると温度感というか、血が通っている感じが出ますよね。でもほんと、その辺はノリというか感覚で描いているからなあ(笑)。こうやって後から理屈めいたことは言えるんですけど、描いているときにはあまり深く考えていないんですよね。
中川
「ピンクを差すと可愛い」と思うのは、どのパーツですか? 指先とかほっぺとか?
岸田
これ僕の趣味とは別に、萌えイラスト業界の流行りみたいなのがあって、いっとき指先にめっちゃ赤を入れるのが流行っていた時期があって。いわゆるメイクのチークみたいに、ほっぺのどの部分にどう差すのかが時代によって変わるんです。
中川
へえ!!
岸田
昔だったらチークを入れた上に、ハイライトを足すのが流行りだったんですが、最近はそれをやるとちょっと古臭い感じになってきていて。チークも、なんなら「イガリメイク」みたいな感じで目尻まで入れることもありますね。
中川
イガリメイク!! イガリメイクという単語がメル先生の口から出るのも、めっちゃ面白いです。
岸田
結構、女性のメイクとか観察するの好きなんですよね(笑)。実際、イガリメイクみたいにすると女の子の顔が幼くて可愛らしく見えるし、萌えイラストでも似たような理屈でやってたりします。
中川
すごい! でも、ご自身の絵柄やタッチをキープしつつ、そのときどきの流行を取り入れているのはすごいですよね
岸田
もちろん、流行がどうであろうと自分ではやりたくないディティールもあります。その代わり「これはいいな」と思ったら、積極的に取り入れていますね。僕の絵はコントラスト差と明暗差を狭めにしていて、黒いところをそんなに黒くせず、紫とか青にしていることが多いんですね。でも最近の流行りとしては、もう少しコントラストが強いほうが受けているので、自分なりにコントラストを強めるなどしていますね。それによって「前のほうが良かった」と言われることも多々ありますし、もちろん「今のほうが好き」って言われることもあります。
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中川
そういう、ファンの声はどこから届くのですか?
岸田
直接僕に言ってくる人もいますけど(笑)、エゴサーチとかメチャメチャするので、それで目にすることが多いですね。
中川
ええ! エゴサーチするんですね……! じゃあ、ブログでコスプレしたり、変顔を載せたりするのも、反応を楽しんでいるところはあります?
岸田
「反応が欲しいからする」というよりは、単純にいたずら心でやっていただけで。結果、プロモーションの一環みたいになっちゃってますけどね(笑)。コスプレに関してはもう、取り返しのつかないことに……。ただ、リアクションが欲しいがためにやって、向こうの要望にも応えなければならなくなっていくのは何よりかったるいので、そこはもう全然気にせず自分がやりたいタイミングでやっています。やったらやったで、反応は確かめますけどね。「ちゃんとウケたかな?」って。
中川
面白すぎる(笑)。私、基本は趣味でイラストを描いてTwitterなどに上げてるんですが、例えば今流行っているアニメを観て、それに触発されてイラストを描いても、「しょこたんの絵って懐かしい」「90年代っぽい」って必ず言われてしまうんですよ。何故なんでしょう……ずーっとセーラームーンばかり描いていたからかな。
岸田
でも、それって一番すごい魅力だと思いますよ。強烈な個性になっているわけですし。それに「趣味」っていうか、中川さんの絵は激ウマのレベルですよね。プロ級じゃないですか。
中川
いえいえ、そんな。
岸田
でも、さっき「コントラスト強目になってきた」と自分で言いましたがやっぱり基本は明暗の差をなるべく少なく、あっさり目に書くのが今風なのかもしれないです。それか、すごく写実的に描いているんだけど、顔だけはフラットに描くとか。
中川
なるほど、勉強になります!
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中川翔子
女優・タレント・歌手・声優・イラストレーター。
東京2020大会マスコット審査員や、2025年万博誘致スペシャルサポーターなど、国家プロジェクトにおいて重要な役割を務めるなど、国内外に向け広く活躍。
音楽活動ではシングル「blue moon」がオリコンデイリー4位を獲得。
アメリカ・アジアでライブ出演するなど、アーティストとしての人気は海外にも広がっている。
5/5バースデーライブ@豊洲PITで開催予定。
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岸田メル
イラストレーター/キャラクターデザイナー。五代ゆう『パラケルススの娘』(MF文庫J)のイラストでデビュー。ガストの人気ゲームシリーズ「アトリエシリーズ」のキャラクター・デザインに抜擢され、『ロロナのアトリエ~アーランドの錬金術士~』『トトリのアトリエ~アーランドの錬金術士2~』でその名を広く知られるようになり、いま最も注目されるイラストレーターの一人に。その透明感のある色彩をもった絵柄は、男女問わず熱狂的な支持を集めている。
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