中川翔子のポップカルチャー・ラボ連載第8回-漫画家 かっぴー

Photo : Shuya Nakano Styling:Aya Omura Hair and Make:Toh Text by Takanori Kuroda Edit:Masayuki Shoji (honcierge)

FUN'S PROJECT TOP > ポップカルチャー・ラボ > 漫画家 かっぴー対談

クリエイター共創サービス「FUN'S PROJECT」がお送りする連載企画。中川翔子さんと多彩なゲストによる、クリエイターの「こだわり」にフォーカスしたトークセッションを毎回お届けします。第8回のゲストは『左ききのエレン』が話題を呼んでいる漫画家のかっぴーさんです。

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中川翔子
女優・タレント・歌手・声優・イラストレーター。
東京2020大会マスコット審査員や、2025年万博誘致スペシャルサポーターなど、国家プロジェクトに参加するなど、国内外に向け広く活躍。 音楽活動では7/10に小林幸子&中川翔子「風といっしょに」(7/12公開『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』主題歌)をリリース。リリースイベント「ポケだちツアー」を全国各地で開催中。 アメリカ・アジアでライブ出演するなど、アーティストとしての人気は海外にも広がっている。
>>しょこたんねっと

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かっぴー
1985年神奈川生まれ。株式会社なつやすみ代表。武蔵野美術大学を卒業後、大手広告代理店のアートディレクターとして働くが、自分が天才ではないと気づき挫折。WEB制作会社のプランナーに転職後、趣味で描いた漫画「フェイスブックポリス」をnoteに掲載し大きな話題となる。2016年に漫画家として独立。自身の実体験を生かしてシリアスからギャグまで、様々な語り口で共感を呼ぶ漫画を量産している。

普段から「二次創作」を楽しんでいる人は、創作へと昇華できる表現者

アニメクリエイター、イラストレーター、ゲームクリエイター、声優など、日本が誇るポップカルチャーの領域で活躍している方々と、中川翔子による一対一のトークセッション。今回のゲストは、漫画家のかっぴーさん。対談の後編では、「オリジナリティ」とは何かを熱く語ってくださいました。クリエーターを志望するすべての人、必見の内容です。

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中川翔子(以下、中川)
『左ききのエレン』って、張り詰めた雰囲気がずっと続いているような作品じゃないですか。実際に描く時はどんな感じなんでしょう。短期間で集中して描いているんですか?
かっぴー
そうですね。ネームは原作版の時も、リメイク版でも1日で描き上げるようにしています。
中川
1日!?
かっぴー
2日とかに分けてしまうとテンションが変わっちゃうんです。「ひと呼吸で描く」ということは意識しているかもしれないですね。
中川
すごい。話が進まなくて「どうしよう、うーん……」みたいにはならないんですか?
かっぴー
話が進まなくて自分が悩んでいる時は、きっとキャラクターも悩んでいると思うんですよ。なので、どうしてもそのキャラだけでは解決しないと思った時は、他のキャラを連れてくるかも。「ここで神谷(雄介)さんが何かを言って、その言葉をきっかけに解決に向かっていく」みたいにするとか。大抵はそれでうまくいきますね。
中川
神谷さんは、いつも助けてくれますよね……いい人だなあ。
かっぴー
(笑)

さっき時系列の話が出ましたけど、僕の漫画って回想シーンが多いじゃないですか。「あの時、あいつがあんなこと言ってたっけなあ」みたいに思い出して、それをキッカケに問題解決していくというか。それって、僕自身も何か思い悩んだとき、「そういえばあのキャラが、あの時あんなことを言ってたな」と思い出して突破口を見出すことが結構あるからなんですよね。それを漫画の中でもやってみているわけです。
中川
ご自身が作ったキャラのセリフに、後から救われることってあるんですね。
かっぴー
そうなんです。で、もし漫画の中のキャラを総動員しても解決できない問題が発生してしまったら、その時はもうお手上げですね(笑)
中川
あと、この作品の中に何度も出てくるテーマとして、「生み出せる人と、それができなくてもがく人」の葛藤というのがあると思うんですけど、それってすごく身につまされるんですよ。
かっぴー
どうしてですか?
中川
私は子供の頃から絵を描くのがすごく好きで、既存のキャラクターを描くのは得意だったんですけど、「自分のタッチ」みたいなものがないのがコンプレックスなんです。おそらく、そういう人って世の中にたくさんいると思う。例えば作詞をする時でも、アニメのタイアップとかだと「テーマはこうで、主人公の目線から明るい感じで」みたいに色々と「縛り」があるので、「何でもいいから自由に書いてください」と言われるよりも楽に取り掛かれるんです。
かっぴー
ああ、なるほど。わかります。
中川
そういう人が、ゼロをイチにすることって可能なのでしょうか。そもそも向いていないのかな……。
かっぴー
いや、そんなことはないと思います。今、中川さんがおっしゃったことっていわゆる「二次創作」だったりするわけじゃないですか。
中川
そうですね。
かっぴー
「二次創作」ができる人というのは、絶対にモノづくりが向いていると思いますね。例えば僕は、映画を観るときによく頭の中で二次創作しているんです。最近だと『ラ・ラ・ランド』を観た時に死ぬほど感動したんですけど、でもそれって、結構「個人的な観賞」をしているからだなっていう自覚があるんです。
中川
個人的な鑑賞?
かっぴー
あの映画はセブとミアという、まったく性格の違う男女の物語ですが、おそらくあの2人は監督の分身だと思っていて。そうするとメチャクチャ熱い話に感じられるんですよね。2人の男女の葛藤は、実は監督自身の心の中の葛藤だと。

「二次創作」の醍醐味というのは、そうやって本編ではそこまではっきりと描いていない、キャラクター同士の関係性を想像の中で膨らませながら楽しむことだったりする。それって作品を分析する力がすごく必要ですよね。絵を描く場合もそう。「このキャラクターの特徴は、一体どこにあるのか?」ということを分析する力というか、細部まで観察する能力というのが必要で、普段から「二次創作」を楽しんでいる人は、そういう能力が培われている気がします。一番いい楽しみ方を知っている読者でもあるし、創作へと昇華できる表現者でもあるんじゃないですかね。
中川
なるほど。
かっぴー
オリジナリティ云々の話になってくると、僕は「本当のオリジナリティ」とは何か?を考えてしまう。例えば、誰かの真似をして絵を描いたとしても、まったく同じにはならないわけじゃないですか。物語を二次創作しても、オリジナルとは違う。どれだけ似せようと思っても、100パーセント同じにはならなくて、その「差分」がその人のオリジナリティだと思うんですよ。

逆にいえば、オリジナリティがない人というのは何もやらない人です(笑)。常に手を動かしている人、何かを作り続けている人は、絶対にオリジナリティのあるものが作れるようになるはずだと。
中川
今のお話で、ものすごく励まされた人がいっぱいいるはずです! そうか、何かヒントを見つけるためにも、二次創作をしてみるのはいいのかも知れないですね。そこから膨らませていけば、いつかオリジナルな作品にたどり着くというか。
かっぴー
そう思います。まったくゼロから作ろうと思うよりも、二次創作から入った方が絶対に近道だし、深い部分を掬えると思うんですよ。「よし漫画家になろう」と思っていきなりコマ割りから入っても、それってどうなんだろう……? と思う。これはあくまでも個人的な見解ですが、僕の中でコマ割りは優先順位低いですね。青年誌とか、大味なコマ割りでも十分成立してるし、コマ割りとか全然うまくなくても思わず惹き込まれてしまう作品はたくさんありますからね。一番大切なのは「熱量」。大好きな漫画を「もっと楽しみたい」と思って二次創作を始めるのはすごい「熱量」じゃないですか。
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中川
他に「オリジナリティ」を出す上で大切なものってなんですか?
かっぴー
既存のものの組み合わせも、オリジナリティにとって大事なのかなと思います。
中川
組み合わせ! 例えば?
かっぴー
例えば『ONE PIECE』を好きな人って世の中に何億人といますが、『ONE PIECE』と『サザエさん』の両方が好きな人となると、ちょっと絞られる。さらに『ONE PIECE』『サザエさん』それから「ファッション」が好きという人は、さらに絞られていきますよね。別にマニアックなものが好きじゃなくても、そうやってベタなものを5つくらい組み合わせていったら、オリジナリティになる可能性はあるわけです。

僕自身、スニーカーが大好きで、アートもファッションも好きで、それを全部『左ききのエレン』に盛り込んでいる。単行本の表紙カバーには毎回、スニーカーの絵を描いているし、キャラクターがどんな靴を履いているかも最初の設定でものすごく考えているんです。
中川
なるほど。確かに作品を読んでいて、「神谷さんって、裏原ブーム世代なんだ!」とかスニーカーで知れるのは楽しいし、そういう細部のこだわりもオリジナリティになっていくんでしょうね。勉強になるなあ。結構、関連性のなさそうなものとか、意外性のあるものとかを組み合わせた方が、オリジナルな作品になっていくというか。
かっぴー
そう思います。『左ききのエレン』には「ニューヨーク編」があって、それは僕が、たまたま映画の舞台によくなるニューヨークに憧れ、エレンを描き始める数年前に初めての一人旅でニューヨークへ行ったからこそ描けたんですよ。
中川
ニューヨーク編、すごく好きです。
かっぴー
その旅行がめっちゃ楽しくて、ニューヨークの写真を大量に撮って帰ってきたんですけど、その素材がものすごく役に立った。もちろん、ニューヨークへ旅行した当時には自分が漫画家になるなんて夢にも思っていなかったんですけど、その時のことが、こうやって後から役に立つのは不思議だなあと思いますね。
中川
ほんと、何事も無駄じゃないんですね。
かっぴー
そう思います。その時に泊まったドミトリーは日本人が経営していて、そのオーナーさんがアートにめちゃめちゃ造詣が深く、現地でアート関係の仕事もしていたんですよ。それで、一緒にギャラリーを巡ったりもしたんですよね。漫画の中に、「ガゴシアンギャラリー」という実在するトップギャラリーが出てくるんですけど、それはそのオーナーさんに案内して連れて行ってもらったんです。
中川
へえ!
かっぴー
しかもそのドミトリーで、たまたま一緒になったある日本人のミュージシャンがいて、その人のPVを僕が撮影することにもなって。そのエピソードを『左ききのエレン』の中にも盛り込んでいるんですよね。だから、自分が今まで経験してきたこと、好きなもの、そういうのをマッシュアップしている感じもします。
中川
確かに、今の自分には想像もできないことが、未来の自分にはできているかも知れないというか。当時は夢にも思っていなかったことが、後になって実現しているという経験は私も何度かしてきました。私、自分が芸能界に向いてるとはとても思えなくて、コンプレックスだらけで卑屈になって、「どうせ私なんかは」なんて言ってばかりだったんですけど、その時に夢中になってやっていたことが、後から役に立つこともたくさんあったんですよね。
かっぴー
そうだったんですね。
中川
お話を聞いていると、かっぴーさんってすごく好奇心旺盛というか。興味を持たれる分野もすごく幅広いんですね。
かっぴー
とにかくミーハーなんです。世間では作家と言うと、ストイックで一つの分野に精通しているというイメージだと思うんですけど、僕は悪く言えば「浅く広く」って感じなんですよね。なので、友人はみんな僕のことを「作家っぽくない」と言っていますね(笑)。ただ、浅くても「入口の熱量」は持っているというか。ニューヨークもスニーカーもアートも、それぞれ僕より詳しい人はたくさんいますが、熱量だけは一人前だと思っていますね。

それと、詳しすぎると逆に描けなくなることもある気がするんです。僕の場合だと、代理店のエピソードを描くのが意外と難しくて。色々知っているがゆえに、「あれも描きたい」「これも描きたい」ってなってしまうし、「あれ、ちょっとここおかしいな?」みたいに気になるところが多くなるんですよね、いろいろ説明したくなっちゃうんですというか。そうするとエンターテインメントじゃなくなってしまうこともあって。
中川
なるほど。わかる気がします。それとインタビューの前半で、「代理店の仕事よりは漫画家の方が向いている」「代理店時代よりは生きやすくなった」とおっしゃっていたじゃないですか。そのことについて、最後にお聞かせいただけますか?
かっぴー
サラリーマンって、僕は「専門職」だと思っています。朝9時とかに出社して、定時まで会社にコミットしなきゃいけないなんて、ものすごく難易度の高いミッションだと思いませんか。僕にはとても無理。「今日は午前中は無理だわ」という時もあれば、夜中に突然スイッチが入って徹夜で作業する時もありますから、もしサラリーマンだったら「もう家に帰れ」って怒られますよね(笑)。

そういう意味では、漫画家になってよかったなと思っています。「スイッチ入れなきゃ」とか思わないで済むようになりましたし。もちろん、締め切りもあるからどこかでスイッチを入れなきゃいけないんだけど、そのタイミングを自分で選べるじゃないですか。
中川
確かにそうですね。
かっぴー
広告代理店時代の同僚に会うと、「なんか先越されちゃったなあ」なんて言われることもあるんですけど、自分ではそんなつもりまったくない。たまたま向いていたのが漫画家だった、というだけなんですよね。ただ、サラリーマンとサッカー選手だったらサッカー選手の方が上というイメージがある。それって本当は、「優劣」じゃなくて「珍しいかどうか?」なのかなって。

そういう風に見方を変えたら、救われることもあるんじゃないのかなって思っています。もちろん、レアな才能は尊いんですけど、決して「偉い」わけじゃないというか。そういうことも、『左ききのエレン』の中で描いていきたいと思っています。
中川
今日は貴重なお話を本当にありがとうございました!
かっぴー
こちらこそ、とても楽しかったです!
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中川翔子
女優・タレント・歌手・声優・イラストレーター。
東京2020大会マスコット審査員や、2025年万博誘致スペシャルサポーターなど、国家プロジェクトに参加するなど、国内外に向け広く活躍。 音楽活動では7/10に小林幸子&中川翔子「風といっしょに」(7/12公開『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲 EVOLUTION』主題歌)をリリース。リリースイベント「ポケだちツアー」を全国各地で開催中。 アメリカ・アジアでライブ出演するなど、アーティストとしての人気は海外にも広がっている。
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かっぴー
1985年神奈川生まれ。株式会社なつやすみ代表。武蔵野美術大学を卒業後、大手広告代理店のアートディレクターとして働くが、自分が天才ではないと気づき挫折。WEB制作会社のプランナーに転職後、趣味で描いた漫画「フェイスブックポリス」をnoteに掲載し大きな話題となる。2016年に漫画家として独立。自身の実体験を生かしてシリアスからギャグまで、様々な語り口で共感を呼ぶ漫画を量産している。
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