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中川翔子のポップカルチャー・ラボ連載第3回アニメ監督長井龍雪

Photo : Shuya Nakano Styling:Aya Omura Hair and Make:Toh Text by Takanori Kuroda Edit:Takuro Ueno (Rolling Stone Japan)

クリエイター共創サービス「FUN'S PROJECT」がお送りする連載企画。中川翔子さんと多彩なゲストによる、クリエイターの「こだわり」にフォーカスしたトークセッションを毎回お届けします。第3回のゲストはアニメ監督の長井龍雪さんです

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中川翔子
女優・タレント・歌手・声優・イラストレーターなど、多方面で活躍。東京2020大会マスコット審査員や、2025年万博誘致スペシャルサポーターとしても活動中。また、近年は女優として積極的に活動を行い、2015年朝の連続テレビ小説『まれ』、2017年TBS系『あなたのことはそれほど』、2018年ミュージカル『戯伝写楽2018』、NHKドラマ『デイジー・ラック』などに出演。音楽活動では、9月23日に渋谷ストリームホールのこけら落としコンサートを開催予定。
http://www.shokotan.jp/

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長井龍雪
1976年、新潟県生まれ。木村真一郎のもとで演出を学び、2006年放送の『ハチミツとクローバーⅡ』で監督デビューを果たす。以降『とらドラ!』や、サンライズの創立35周年記念作品『アイドルマスター XENOGLOSSIA』などで監督を務める。2011年に放送されたオリジナルアニメーション『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』は社会現象にもなり、第62回芸術選奨新人賞メディア芸術部門を受賞。のちに劇場公開された映画は興行収入10億円を突破した。その後も『あの夏で待ってる』、『心が叫びたがってるんだ。』などヒット作を作り続けている。

後編「『アニメ制作って毎日が文化祭』だと思うんです」

アニメクリエイター、イラストレーター、ゲームクリエイター、声優など、日本が誇るポップカルチャーの領域で活躍している方々と、中川翔子による一対一のトークセッション。今回のゲストは、アニメ監督の長井龍雪さん。中川が愛してやまない作品『とらドラ!』をはじめ、社会現象にもなった『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』を手がけた長井監督。対談の後編では、長井さんの監督のキャリアに迫りました。

中川
制作進行の仕事から、どうやって監督になったのですか?
長井
運転免許取り消しになってしまって……。物理的に制作進行の仕事が出来なくなったんです。アニメ業界に残るには、別の仕事に就く以外になくなってしまって。
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中川
そんなことがあったとは!(笑)
長井
制作進行は当時は大きく分けて、プロデューサーになる道と、演出家になる道があったんですね。制作進行をしているときから「演出って楽しそうだな」とは思っていたので、演出家を目指すことにしました。それも、さっき話したようにアナログとデジタルの端境期で、セル画をチェックする「演出助手」の仕事があったから滑り込めたんですよね。それが『星界の戦旗II』(2001年)でした。
中川
今はこんなに大ヒット作をガンガン作っている監督なのに、アニメ業界に入ったのもどちらかといえば遅くて、入った後も紆余曲折があったんですね。やっぱり神様ではなく人間だったんだ! (笑) その頃の出会いで大きかったのはどなたですか?
長井
僕の師匠である木村真一郎さんですね。木村さんが監督の『HAND MAID メイ』(2000年)のシリーズ全体の制作担当や制作進行を担当したんですけど、そこで物語を作ったり、キャラクターを膨らませたりする楽しさを教えていただきました。
中川
監督になりたいと思ったキッカケは?
長井
最初は各話の演出をやらせていただき、それをこなしていくうちに思ったのは、「1話と最終話のコンテを描きたい」ってことだったんです。1話は物語の始まりなのでみんな意欲的だから絵もいいし、頑張るじゃないですか。最終回のコンテを切るのも楽しそうですよね。だって物語を全部、自分で閉めちゃうんですよ? ただ、1話と最終話の絵コンテを切るのは大体が監督の仕事。そこをやるには自分が監督になるしかないと(笑)。
中川
すごい理由(笑)。
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長井
でも、それも結局は運だなと思いますね。「監督やりたいなあ」って口に出して言っているうちに、「じゃあやってみる?」って言ってくれる人が現れるみたいな。
中川
それは私も思います! 自分の夢ややりたいことを、口に出したり書いたりするのって本当に大事ですよね。制作進行から始まり、演出をやって「楽しい!」ってなり、さらにまた新しい夢が見つかって……。そうやって夢を順番に掴み取って叶えていったわけなんですね。
長井
言われてみれば、まさにそんな感じですね。
中川
初めての監督作品は『ハチミツとクローバーII』(2006年)でしたよね。どうでした?
長井
いやあ、最初の数本はただただパニクっていました(笑)。いままでは各話で考えれば良かったのが、シリーズ全体で考えなきゃいけないという、膨大な作業量に圧倒されてしまって。目の前にある仕事をとにかくやっつけていくしかないという状態でした。なにせ、1週間後にはオンエアされるわけで、「つらい」と思う時間すらなかった(笑)。
中川
でも、翌年にはサンライズの創立35周年記念作品というビッグプロジェクトだった、『アイドルマスター XENOGLOSSIA』の監督をされて。さらにその次の年、『とらドラ!』で脚光を浴びるわけじゃないですか。監督は作品を作るとき、いつもどんなことにこだわっているのですか?
長井
『とらドラ!』をやっていたとき、総作画監督を務めた田中将賀さんと、脚本家の岡田麿里の3人で話していたのは、「紋切り型の感情表現は使わず、曖昧なところを曖昧なままで出していこう」ということでした。アニメって、お約束の表現やセリフが多いんですよ。「こういうシチュエーションでは、大抵こうなるよね」みたいな。そこにいく前に、一歩立ち止まって考えようっていうのが、3人のテーマだったんです。アニメの絵って、感情表現の仕方に型が決まりきっているんですよね。それを崩していこうと。
中川
田中さん、岡田さんと「超平和バスターズ」というチームを組んで、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』や『心が叫びたがってるんだ。』を製作しています。木村真一郎さんと同様、このお二人との出会いも大きかったのでしょうね。
長井
そうですね。それまでは先輩とお仕事をさせてもらい、「若手クリエーターを支えてもらう」という構図だったんですが、初めて同年代だけで作品を作るということを経験して。キャリア的にも同じくらいというか、ようやく勝手が分かってきたけど、その分「これはおかしいんじゃないか?」と思う慣習のようなものがあって、そこに対する不満を共感できる相手が見つかった喜びもありましたね。ディスカッションもすごく密にしていたんですけど、「お互いの本音をちゃんとぶつかり合える環境ができた」というのは、かなり大きかったと思っています。「伸び伸びと仕事ができる楽しさ」というのを味わって、それをずっと続けてきていますね。
中川
ロボットアニメ、特にガンダムが大好きだった長井監督に、『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』の仕事が舞い込んだ時は、どんな気持ちでしたか?
長井
最初に話がきたときはもう冗談かと思いました(笑)。でも、そこから2年くらい空いたんですよ。その間に『あの花』とか入っていたので。うれしいのはうれしいんだけど、めちゃくちゃ興奮してハッチャケた時期を過ぎた後だったので、割と冷静に作業を進めることができました(笑)。企画を潰さず持ちこたえてくださったプロデューサーにも感謝ですね。
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中川
憧れのガンダムシリーズを手がけるにあたって、最も気をつけたところは?
長井
なんでしょうね……もうとにかく、小学校のときに「自分専用ガンダム」みたいなの一度は描いていた世代なので、あまり好き過ぎてキモい部分があふれ出ないように気をつけなきゃとは思ってました(笑)。だから、ちょっと一歩引いて「ガンダムってなんだろう?」みたいな、外側から見る視点も大事にしましたね。やっぱり、自分が好きな作品だと逆に緊張してしまう気がします。「このシーンで感動しているのは、俺だけなんじゃないかな?」、「みんなが面白いと思っているポイントって、ここでよかったっけ……?」みたいな。
中川
まだ、未開の領域のアニメ表現ってありますか?
長井
そうだなあ……。富野さんの『聖戦士ダンバイン』や『装甲騎兵ボトムズ』は、今やったら違う作品になるんだろうなって思います。最近だと『ユーリ!!! on ICE』は衝撃でした。今の技術でこういう作画が出来るのは知っていたけど、ちゃんとやるとこんなに美しい画面になるのだなと。まず物語としてしっかりしたものがあり、その上で表現として凄いものを見せつけられると、自分はまだまだだなって思いますね。
中川
ところで長井さんは、ずっとフリーランスで働いているんですよね? そこに「こだわり」はあリますか?
長井
いや、特に……(笑)。バイトから始まっているので、気分的にはずっとフリーターなんですよ。
中川
組織に属してないことで、不安になることはなかったのでしょうか。
長井
でも、組織に入ることで逆に出来なくなる仕事もあるじゃないですか。面白そうな仕事はつまみ食いしたいという気分があります。それに、監督の仕事って、一度決まると半年くらいそれに付きっきりになるから、仕事は途切れてないんですよね。フリーランスという感覚も、だんだん薄くなっていくんですよね。しかも、現場が毎回変わったほうがむしろ楽しいというか。飽きがこないし。1年ごとに机が変わることで、すごく新鮮な気持ちを保っている気がします。ただ、スケジューリングから雑務まですべて1人でこなしているので、ときどき「誰かにマネージメントの仕事やってくれないかな」とは思いますが(笑)。
中川
では最後に、クリエイターへの激励の言葉をお願いします。
長井
「楽しい」を追い求めてほしいですね。「楽しそう」って思ったことを、自分の意思で貫き通して欲しい。使い古された言葉ですが、「アニメ制作って毎日が文化祭」だと思うんです。みんなで徹夜して準備している、あの高揚感がひたすら続いている世界。たしかに自分もそこに憧れて、この業界に飛び込んだし、そこで仕事を覚えていったんですけど、とにかくそんな「楽しい流れ」に乗り続けて欲しい。「楽しい」と本心から思っていることを、何としてでもやり通す。それを貫くためには「締め切り」も大事です。最初の話に戻りますけど、締め切りがあれば「やる気」も出るし、終わらせられる。
中川
「締め切りがイヤだ!」じゃなくて、「締め切りが大事!」なんですね。
長井
締め切り大事ですよ! すべてのタスクに締め切りが欲しい。締め切りがないと、人生も終えられない気がします(笑)。
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中川翔子
女優・タレント・歌手・声優・イラストレーターなど、多方面で活躍。東京2020大会マスコット審査員や、2025年万博誘致スペシャルサポーターとしても活動中。また、近年は女優として積極的に活動を行い、2015年朝の連続テレビ小説『まれ』、2017年TBS系『あなたのことはそれほど』、2018年ミュージカル『戯伝写楽2018』、NHKドラマ『デイジー・ラック』などに出演。音楽活動では、9月23日に渋谷ストリームホールのこけら落としコンサートを開催予定。
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長井龍雪
1976年、新潟県生まれ。木村真一郎のもとで演出を学び、2006年放送の『ハチミツとクローバーⅡ』で監督デビューを果たす。以降『とらドラ!』や、サンライズの創立35周年記念作品『アイドルマスター XENOGLOSSIA』などで監督を務める。2011年に放送されたオリジナルアニメーション『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』は社会現象にもなり、第62回芸術選奨新人賞メディア芸術部門を受賞。のちに劇場公開された映画は興行収入10億円を突破した。その後も『あの夏で待ってる』、『心が叫びたがってるんだ。』などヒット作を作り続けている。
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