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連載第6回アニメ制作会社 株式会社 ボンズ 特集-南雅彦×川元利浩×小森高博-後編

アニメ声優系ニュースサイト「アニメイトタイムズ」と、アニメ、マンガ、ゲームなど、日本が誇るエンタメコンテンツの魅力を発信し、クリエイターやコンテンツホルダーとファンをつなぐサービス「FUN'S PROJECT」のコラボ企画「クリトーク!」。
第6弾の今回は、今年10月に設立20周年を迎え、10月26日~11月25日に東京アニメセンターin DNPプラザで「ボンズ20周年記念展」も開催していたアニメ制作会社「ボンズ」を特集。

前編では、ボンズ代表取締役の南雅彦さんと、アニメーターの川元利浩さん、小森高博さん、プロデューサーの天野直樹さんが登壇したスペシャルイベント「ボンズ20周年記念展トークショー」(10月27日開催)をレポートしました。
そして後編では、南さん、川元さん、小森さんによる鼎談が実現。トークショーを終えたばかりのお三方から、未来のクリエイターへ向けての助言などをうかがうことができました。ボンズ設立前から現在までアニメ制作の最前線で活躍し続け、多くの新人や若手にも接してきたお三方の言葉は、実践的なアドバイスばかりです!
(前編記事はこちらです)

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南雅彦(みなみ・まさひこ)
株式会社ボンズ 。大阪芸術大学の芸術学部映像計画学科を卒業後、サンライズに入社。プロデューサーとして『機動武闘伝Gガンダム』『カウボーイビバップ』などのヒット作を手がけた後、1998年10月に逢󠄀坂浩司、川元利浩とともにボンズを設立した。
※逢坂氏の「逢」は、正しくは2点しんにょうではなく1点しんにょう

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川元利浩(かわもと・としひろ)
株式会社ボンズ取締役。高校卒業後、精密機器メーカー勤務を経て、アニメーターに転身。『カウボーイビバップ』のキャラクターデザインなどで人気を集めて、1998年にボンズ設立に参加した。『GOSICK -ゴシック-』『血界戦線』など数多くの多くのボンズ作品でキャラクターデザインを担当している。

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小森高博(こもり・たかひろ)
株式会社ボンズ取締役。高校卒業後、アニメアールを経て、ボンズに入社。『機動天使エンジェリックレイヤー』で初めてのキャラクターデザインを担当。以降も、『スクラップド・プリンセス』『DARKER THAN BLACK -黒の契約者-』などでキャラクターデザインを担当している。

ボンズは普通のことを普通にやっている会社

─先ほど終わったばかりのトークショーの感想を教えてください。

小森
自分はすごく緊張しました。こういう形で人前で喋る機会もほとんど無くて。イベントに出るときも、LOFT/PLUS ONEとか、自分もお客さんもお酒を飲みながらみたいな場でしたから(笑)。
皆さん、すごく前のめりに聴いてくださってたからね。
川元
海外のコンベンションとかでは、こういう形で話す機会はあるのですが、日本ではなかなかそういう機会が無かったで、緊張しましたね。
自分は「マチアソビ」とかのイベントで、こういう形でお話しすることもあるのですが、だいたい一つの作品や新作についてとかテーマが限定されていることが多いんです。でも、今回はボンズの20年についてという幅広いテーマだったので、記憶を辿りながら話していました。絶対に、りも(小森さん)が串刺し事件のこと言うと思ってたよ(笑)。
小森
昔話になると、絶対言わなきゃいけない話なので。最近は南さんも丸くなったので、昔の南さんを知らない人に、こういう人だったんだよって教えてあげないと(笑)。

─会場に来てくれたお客さまの反応を観ていると、皆さん作品やキャラクターに詳しくて、 ボンズのファンなのだなと感じました。

川元
ただ(ボンズのファンが多い分)ライブドローイングの時、オーダーに出たキャラクターを我々が描けなかったから、がっかりさせてしまったかなと思うと、申し訳ないことをしたなって……。
小森
『STAR DRIVER 輝きのタクト』では、自分は総作画監督補佐という肩書きだったにもかかわらず、(主人公のタクトの顔が)全然思い出せなくて。非常に申し訳なかったです(笑)。
川元
作品が変わって絵柄も変わると、一度頭をリセットしないと次の作品の絵は描けないんです。リセットするということは、前の作品のことを忘れるということなので。今回のライブドローイングは、どんなオーダーが来るのか予想ができなくて緊張感がありました。
でも、皆さん喜んでくださっていたと思うよ。俺なんかはいろいろな所で喋る機会もあるけれど、2人はそういう機会も少ないですし。そもそも、3人でこういうイベントに出るのも初めてでしたからね。
川元
20周年ならではということで。
ずっと、仲はいいんですよ(笑)。

─20周年を迎えた「ボンズ」という会社は、皆さんにとってどのような場所ですか? あるいは、どのような場所にしようと目指してこられましたか?

川元
自分にとってのボンズは、一言で表すなら。本人の前で言うのもあれですが「南雅彦の会社」という印象ですね。アニメーターをはじめとした各セクションのスタッフは、南さんについていっているという印象は、中で作業してきて感じています。
それ、ワンマン会社じゃん。ダメなやつじゃん(笑)。
川元&小森
あはは(笑)。
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最初はサンライズから独立してボンズを作って、プロデューサーは自分一人という形で作品作りをしていたので、そういうところもあるかもしれないですけれど……。ちゃんとクリエイターが作品作りをできるような場所であるべきだ、というのは、ずっと考えてきたことです。会社といえどもビジネス的なことを優先するのではなく、プロダクション的な会社であるべきだというところは強いですね。
小森
ボンズって割と、外の人……知り合いのアニメーターたちから「敷居が高い」みたいなことを言われがちなんですけれど。実際は全然そんなことがなくって。本来、当たり前のことをしているだけな気がするんです。ちゃんとした物を作って、それをテレビなどで流す。そのためにみんな一生懸命に粘って頑張っているだけなので、普通のことを普通にやっている会社というイメージです。ただ、それができていない作品もあるとは思うので、普通のことを普通にできるのは良いことなんだな、と改めて感じてもいます。

素材を右から左へ流すだけでは、作品作りはできない

─「普通のことを普通にする」のも簡単なことではないと思うのですが、それを実現するためにどのようなことを心がけているのでしょうか?

川元
たしかに、普通に作れない状況というのは、年々、業界全体に広がってきているとは思います。ただ我々も成長したり、スキルを身につけたりすることで、なんとか普通のところまでこぎつけているというのが現状なんですよね。以前、ある媒体でインタビューを受けた時、「今後の目標は?」という質問に「現状維持」という話をしたら、ネガティブに聞こえちゃったのか記事にしてくれなかったんですよ(笑)。
南&小森
あはは(笑)。
川元
でも、僕は、日頃から次のステップも考えてるし、面白いこと新しいことをやりたいと思って実践しているつもりなので、「その現状」を維持するというつもりだったんです。周りの状況がどんどん悪くなる中でも、それを目指していく。その姿勢は20年前も今も変わっていません。
アニメーションは色々なクリエイターの集合体が作るものじゃないですか。当然、監督が「こういう作品を作ろう」とディレクションをしてくれるにしても、アニメーターなり、色彩設計なり、撮影なり、音響なり、といったスタッフが集まって一つの作品ができてくる。そのベストなバランスを求めていく……って言うと本当に普通のことなんですけれど。それが出来なくなってくると、歪な作品になるということもよく知っているので。 各ポジションの人たちがベストな仕事をやってもらえるようにと考えています。それが常に完璧にできているのかというと、できてはいないのですが、常にベストを目指していくという姿勢は、スタッフみんなに持ってもらいたいですし、当然ウチの制作陣にもそういう話をしています。この20年で会社の規模が大きくなったとか、作品数が増えたといった変化もあるのですが、制作進行で入った人間がプロデューサーへとステップアップしていく中で、作品を作るプロフェッショナルになっていったということも大きな変化で。それがあるからこそ、今のボンズがあるのだと感じています。

─川元さんと小森さんは、新人や若手のアニメーターに対して、技術的なこと以外で、いつも教えていることや、大事にするように伝えていることはありますか?

小森
最近の若い子は頭でっかちと言うか、描く前に「失敗したらどうしよう」みたいな感じで、考え込んじゃう子が多い気がするんですよ。だから、とりあえずは手を動かそう。そこで失敗しても命を取られるわけではないし、とりあえず自由に描いてみよう、みたいなことはよく言いますね。
川元
SNSが発達しているせいかもしれないですけれど、いろいろな所から情報を入れやすくなっていることで、本来なら、まずやらなくてはいけないことを棚に置いた状態で、その情報に踊らされている感じはありますね。あと、昔は演出、作監、原画がみんな集まったところで打ち合わせをして、質問事項があればその場で確認するという形で物を作っていて、一体感もあったんです。でも最近は、作品数も多いし、ネットを使えば地方でも作業ができるので、一同に会して打ち合わせをすることが難しくなっているんです。そうすると、事故も発生しやすくなると思うんです。少し話が逸れてしまいましたが、そういう面でも、人を育てるということが難しくなってきています。

─それでも、可能な限りはコミュニケーションを取っている感じなのでしょうか?

川元
もちろんそうですね。アニメーションは集団作業になってくるので、コミュニケーションは大事にしています。ただ、我々が経験してきた、動画で経験を積んで原画になり。そこでまた経験を積んで、作画監督になる、みたいな流れが変わってきてもいるので、その点でも教えることの難しさは感じています。
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─南さんは、制作進行やプロデューサーを育てる上で、特に大事に伝えていることはありますか?

作品って、一つしかできないんですよね。途中でどれだけの可能性があったとしても、出来上がったものがすべてなんです。だから、我々制作陣は想像力を持って、どんなスタッフと、どんな作品を作っているのかという(完成形の)イメージをしながら作業に当たらないといけない、ということは伝えています。例えば、川元君がこの作品でどういった仕事をやってくれるのだろうか。小森君がどういう仕事をやってくれるのだろうか。美術さんがどんなボードを描いてくれるのだろうか。そういうことをちゃんと想像して、それを組み合わせながら作品を作っていく、という考え方を持ってもらわないといけない。それができることは、次のステップであるプロデューサーになった時、絶対に生きてくる。ただ、素材を右から左へ流すだけでは、作品作りはできないんです。

どんな経験を積んでその職業に就いたかで、伸びるスキルが変わる

─ボンズに新人が入ってくるとしたら、こういう人に来てもらいたい、こういう人と一緒に作品作りをしたい、といった理想を教えてください。

小森
アニメーターで言うと、絵を描くのが好きな人ですね。
基本だよね。絵を描いたり、絵を動かしたりするのが好きじゃないと。

─絵を描くのが嫌いな新人アニメーターもいるのですか?

小森
レイアウトとかを描いてもらってチェックする時、「この子は絵を描くのが嫌いなのかな?」と思っちゃうような人もたまにいるんです。自分達はもういい年なので、絵を描くのはだいぶ辛いんですけれど(笑)。20歳の頃とかは、一日中、絵を描いていても何の苦にもならなかったんです。でも今は、そうでもなさそうな子がけっこういるなって。

─私も雑誌の編集者をしていた時、後輩に雑誌に興味が無くて、全然読まない新人がいたことを思い出しました(笑)。

小森
新人募集の面接で「今、どんなアニメを観てるの?」って聞いても、なかなか答えられない子もいるんですよ。
川元
あとは、絵は描くけれど映像には興味がない子とかもいます。「最近、どんな映画を観た?」って聞くと、すごい昔の作品しか言えなかったり。動く映像に対してどこまで興味があるんだろう、という印象を受けたことがあります。話をするときの共通言語がなくて難しいなと感じることもありますし、アニメーター志望なら映像への関心は持っていて欲しいですね。
制作も一緒ですね。アニメーションって映像分野の一つじゃないですか。だから、映像が好きじゃないとダメだとは思います。意外と、ウチのようなプロダクションにも、ビジネスマン的な関心で入ろうとする人はいるんですよ。あと、観ることと作ることも全然違うので。作ることが大好きな人たちが良いですね。そのためには、すごく勉強しなきゃいけない部分もあると思います。

─どういったことを学んでいって欲しいですか?

映画についての勉強もして欲しいですし、演技についても、役者向けの本を1、2冊ぐらい読む程度には学んでいて欲しいです。というか、映像に興味があれば自然とやってると思うんですよ。

─では最後に、アニメ制作に興味がある、未来のクリエイターに向けてメッセージをお願いします。

小森
今のアニメ業界って、ウチも含めて2期とか3期とかが多いですよね。それも悪いことではないのですが、自分はまだ観たことのないものを観たい。だから「あの作品の2を作りたいです」とかではなくて、「誰も観たことないもの、新しいものを作ってやるぜ!」みたいな人が、どんどん入ってきて欲しいなと思います。
川元
どんな経験を積んでその職業に就いたかで、伸びるスキルが変わっていく気がするんです。例えば自分も、学生の頃に色々なバイトをしていたのですが、その経験がキャラクターデザインになった時、生きてきたりもしました。だから、どんなことでも良いのですが、絵を描くとか、アニメを観る以外の別なことにも興味を持って、それをある程度突き詰めてみると、将来、アニメーターになった時にプラスになると思います。ぜひ、そういうことも考えながら、学生生活を送ってください。
アニメーションの仕事って、アナログからデジタルになって、CGとも融合してとか、表現方法はいろいろと変わってきてはいるんですけれど。自分の好きなアニメーションというのは、アニメーターが脳の中で考えた演技とか動きが、手を通じて映像として表現されるもの。それがアニメーションという映像表現の本来の姿だし、アニメーションの武器であることを理解して欲しいです。それと、制作も含めた映像クリエイターという職種は、人様に見せるものを作る表現者ですから、それだけの責任とかを持てるような人間になって欲しいと思います。まあ責任を持つということは、社会人なら、どんな職業にも共通のことかもしれないですけどね。特に、リアルロボットものとかは、人の生き死にを映像で扱うのだから、それ相応の責任というものを背負って表現しなくてはいけない。そういうことも、しっかりと理解して欲しいと思います。あと、自分の経験で言えば、 大阪芸大にいたことがすごく勉強にはなっているんですよ。8ミリ映画でカメラをやっていたんですけれど、カチンコが鳴った瞬間に役者も動くし、カメラも回るし、音も録る。そうやって、みんなで一つのカットを作っていく緊張感がすごく好きでした。ただ、アニメの場合、バラバラの場所でバラバラの作業をやっているので、それを一つの作品に落とし込んでいくことについては、実写以上の緊張感があります。その緊張感は、制作が持ってなくてはいけないことである、というのも知っておいて欲しいなと思います。
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【取材・文=丸本大輔 撮影=相澤宏諒】

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南雅彦(みなみ・まさひこ)
株式会社ボンズ 。大阪芸術大学の芸術学部映像計画学科を卒業後、サンライズに入社。プロデューサーとして『機動武闘伝Gガンダム』『カウボーイビバップ』などのヒット作を手がけた後、1998年10月に逢󠄀坂浩司、川元利浩とともにボンズを設立した。

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川元利浩(かわもと・としひろ)
株式会社ボンズ取締役。高校卒業後、精密機器メーカー勤務を経て、アニメーターに転身。『カウボーイビバップ』のキャラクターデザインなどで人気を集めて、1998年にボンズ設立に参加した。『GOSICK -ゴシック-』『血界戦線』など数多くの多くのボンズ作品でキャラクターデザインを担当している。

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小森高博(こもり・たかひろ)
株式会社ボンズ取締役。高校卒業後、アニメアールを経て、ボンズに入社。『機動天使エンジェリックレイヤー』で初めてのキャラクターデザインを担当。以降も、『スクラップド・プリンセス』『DARKER THAN BLACK -黒の契約者-』などでキャラクターデザインを担当している。