FUN'S PROJECT REPORT


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FUN'S PROJECT REPORT #0012019.07.19

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ダイスケリチャード トークライブ with ILLUSTRATION Exhibition SESSION Vol.01 『せいかつのふしぎ』

6月14日~7月7日、市ヶ谷のDNPプラザで、「ILLUSTRATION Exhibition SESSION Vol.01 『せいかつのふしぎ』」(主催:株式会社Sozi/共催:FUN'S PROJECT)が開催されました。「SESSION」は、新進気鋭のイラストレーターの作品を集めた図録「ILLUSTRATION」シリーズからテーマごとに魅力的なイラストの描き手を紹介し、新たな作家との出会いや、多様なイラストの楽しみ方を提案する展覧会です。第1回目にあたる今回は、「せいかつのふしぎ」と題し、生活の中のちょっとした不思議をテーマに、大日本印刷の高精彩出力技術「プリモアート(R)」による出力で作品の展示と販売が行われました。 さらに、アーティストと直接コミュニケーションを取れる場としてトークライブを実施。会場を訪れたファンの目の前で、ダイスケリチャードさんの作品制作が公開されました。

ダイスケリチャード流テクニック大公開! ライブペインティング

ダイスケリチャードさんは、自身がデザインするファッションブランドの新作未公開パーカーを着用して登場。編集者の平泉康児さんと、野口尚子さんが進行を務めるなか、イベントがスタートしました。

ダイスケリチャードさんがイラストを描くのに利用するツールは、iPad Proとペイントソフトの「Procreate」です。以前はMacの「CRIP STUDIO PRO」と、板タブ(ペンタブレット)を使用していましたが、2~3年前からは現在の環境に移行したとのこと。

「iPad Proの『Procreate』は使えるレイヤー数が限られているので、最低限の工程だけにしていった結果、昔よりシンプルな構成になりました。ツールを変えたことで今っぽい絵になっているのかなとは思いますね。前はレイヤーがごちゃごちゃになって、何百とかになっちゃうこともありました」

「Procreate」の気に入っている点としては、画面がシンプルなこと。 「パソコンと違って最低限の道具しか画面上に出ないんですけど、僕はあまりテクニカルなツールの使い分けもしないので、画面上には何もないに越したことがない。作業に集中できる状態で描けるのがいいですね」。 普段の作品制作の場合は、最終的にはMacの「Photoshop」でグラデーションを付けるなどの調整を行うそうですが、本日はiPad Pro×「Procreate」で最終段階まで作成を行います。

早速ライブペインティングがスタート。本日のテーマは「いつも描いている箱型の部屋」。

「Procreate」は描画ガイドを使ってパースの設定ができる機能があり、オンにしておくと、ガイドに沿った枠組みを作り、進めていくことができます。 ソフト内で描くペンとしては、「製図ペン」を中心として使用しているとのこと。 「製図ペンの太さだけを変えた設定をあらかじめ用意しておき、太めの線画を描くとき、ラフを描くときと使い分けています。いちいち太さをかえるとブレが出ちゃうので」

トークをしながらも、描く手は止まりません。「いつもラジオやテレビのバラエティ番組を家ではつけっぱなしで、関係のない話を聞きながら描いているので慣れてます(笑)」。 サクサクと迷いなく、イラストが描きこまれていきます。

「最初の段階は考えますけど、あとは基本的には埋めていけばいいだけなので早いですね。最初に枠を作って、今回で言うと寝ている人物を描いたら、あとは空いている空間なので、棚を追加したら次は棚の中を描く、という感じで埋めていきます」 部屋の中には机に突っ伏す女の子。そして、部屋の外には吊るされたバッグと制服が描かれます。数枚のレイヤーで簡潔に描かれていきます。

会場からの質問に答えたり、大好きなジャニーズの話で盛り上がったりしつつ、約40分でラフが完成しました。

「工程のなかで体感的に時間がかかるのは線画(ペン入れ)。なぞるだけでつまらないじゃないですか。 でもたぶん僕の場合、実際に一番時間がかかっているのはラフですね。あまりテクニカルな絵じゃない分、発想とか構図で攻めないといけないと思うので、ラフ段階では、考えて作り上げていくことが多いです」

線画では、紙を回すように画面内のキャンパスの方向を変え、拡大縮小を頻繁に行いながら描き進めていきます。同時に黒べタ部分も塗っていきます。 「今日線が荒々しいのは時間がないからです。いつもはもうちょっと丁寧です(笑)。でも、まっすぐな線でもツールの直線を使うのではなく、手で引くということは意識しています。なるべく直線ツールとか図形描画ツールは使わずに描きます」

約20分ほどで線画が完成し、すぐに塗りの工程に取り掛かります。まずは外のカバンから。水色の枠線を取り、内側を塗りつぶします。

ダイスケさん独特の色遣いで塗り進めていきます。 絵を描くときに使う色は、描きながら決めていくとのこと。色はあらかじめ用意せずに、カラーディスクから都度選んでいきます。 「だいたいピンクとか水色が多くて、大きく分けると3色くらいです。1回それで塗ってみて、そこからいじっていく感じですね」。 ピンク系と水色系で、微妙に異なる色を選んで塗っていきます。

塗りの工程がほぼ終了しました。さらに、完成度を上げるため、ダイスケさんがよく使うテクニックで仕上げをしていきます。

テクニックその1は、影を全面に入れる方法です。新たにレイヤーを作り、一面を同じ色で塗りつぶして重ね、影を表現します。ここで「赤」という影らしくない色を選ぶのが“らしい”ところ。さらに、「焼き込み(リニア)」を設定して不透明度を変えることで、後ろのレイヤーの色と中和させます。

重ねた部分の「色相・彩度・明るさ」を変更すると、好きな色に変えることができます。 「一度塗った色を一気に自分がイメージした色に近づけたいときは、細かく色をかえるよりはこのほうが効果的です。雑な方法ですけど、これでかなり締まります。焼き込みで後ろの色と中和させることで、違和感なく深みにつながるのかな。と思っています」 窓部分も同様に1色で塗りつぶし、彩度や透明度を調整することで、ガラス越しに見える室内の雰囲気を出すことができます。

テクニックその2。現実的な色とは異なる色を、ポイントとして乗せていく方法です。 「ヘリ部分など影になる一部分を、まったく違う色に塗ります。絵をちゃんと学んだことがないせいで、影の付け方をちゃんと理解できていないので、それを逆手にとって影という認識とは違う色を入れてしまう。すると、僕の色調っぽくなります」

テクニックその3は、上下で明るさを変え、奥行きを表現する方法です。 「モーションブラー」を利用してグラデーションのレイヤーを作ります。通常、モノは上にあるほうが明るく、下にいくほうが暗いので、グラデーションを調節し、不透明度をかなり低くした上で重ねます。

「パッと見だとわからないくらいですが、グラデーションを重ねた方が明確に凝った印象に見えます。立体的なパースをつけたイラストには特に効果があります。それぞれの色をパーツごとに調節していく方法もありますが、全体的に下から上にグラデーションをかけるだけでも、簡単にその効果が得られます」

最終仕上げとして、ハイライトを追加します。角の部分に白い色を乗せます。 「白いところをガッツリ白くしておくと、ポイントになります」 確かに、はっきり目立つところがある部分があると絵が引き締まります。

最後に、日付とサインを入れて完成。

トークをはさみつつ、ラフから約1時間20分で作品が完成。

通常、1枚のイラストを描くのにかける時間は、人物だと1時間、今回のような空間を描くようなものだとだいたい2時間くらいだとのこと。 「今日は2時間もらえるって聞いてたんで、箱を描くって言ったんですけど……。ふたを開けたら説明とかトークとかいろいろあってきつかったー!」

質問コーナーとカプセルトイの強制!?プレゼント

ライブペインティングは、会場からの質問に答えながら行われました。作成中のイラストの隅に回答内容を捕捉する絵がちょこちょこ描きこまれ、会場が盛り上がる一幕も。

●好きなモチーフはありますか?


「イラストに描くときに好きなモチーフは食べ物。最近だと目玉焼きが多いです。寿司とかも好きだけど、寿司モチーフを描いているひとはたくさんいるし、いろいろ描きこまなきゃいけなくて面倒なので(笑)」 たまごはお気に入りのモチーフのようで、そのほか「今はまっていること」が「ゆでたまごをゆでること」だったり、「以前ルーチンとしていたこと」が「スクランブルエッグを作ること」だったりと、随所に登場していました。

●絵を描き始めたきっかけは?


「一番古い記憶だと、幼稚園で車の絵を描いたときです。みんなが平面的な絵を描くなか、僕は唯一立体的に描いてたと親から聞いてます。それで褒められて、廊下に飾ってもらったりしました」

会場にはイラストをみずから描く観客も多く、イラストレーターという仕事についての質問も寄せられました。

●モチベーションを保つ秘訣は?


「モチベーションなんてないです。ただ、絵を描いて、何か反応をもらわない限り、人生に何もないんですよ。世界に僕しかいないんじゃないかって。絵を描いて反応があって、初めて人がいたんだってことがわかる。もしくは超高機能なボットを残してみんな死んだか(笑)。要は反応が欲しいので、描くこと自体は実はそこまで好きとは言えない」

●日々ルーチンワークとして何か行っていますか?


「朝ごはんを毎日6時に近所のファミレスで食べるっていう習慣があったんですけど、1か月で店がなくなっちゃって強制終了。フリーランスだと時間の感覚がなくなっちゃうので、何か欲しいと思ったんですけどね。今はあえていうなら水曜10時と木曜1時半、あと月曜深夜2時に好きなテレビ番組があるので、絶対に休憩してお酒を飲むって決めています。いつもメールが来たら『すぐやらなくちゃ』と思っちゃうので、お酒を入れたら絶対仕事をしないと決めています」。

●絵を見せると、いつも友だちに笑われる。どうしたらダイスケさんみたいな素敵な絵が描けますか?


「まず人に見せるのはすごく大事なので、友達に見せてるってことはすごくいいことですよ。僕も最初は抵抗感がありましたけど、高校のときにすごく仲のいい友達がいて、そいつにだけ見せたらめっちゃ褒めてくれたんですよ。それが同人的な活動を始めるきっかけになりました。見せることでモチベーションも上がるし、ダメなところを指摘されたらそこを直せばいい。僕も絵のうまさで言えば、イラストレーターの中では中の下~…いや下の中くらいだと思うんですけど、それでも僕だけの特徴を持っているせいもあって仕事として成り立っている。だから、絵がヘタ=イラストレーターになれないとか、イラストを趣味にしてはいけないとかいうことではないと思います。下手だと言ってくれるくらい仲がいい友達に見せるっていうのはすごくいいことだと思いますよ! 堂々といきましょう!」。

音楽系の仕事も多いダイスケリチャードさんらしく、音楽に関する質問も。 ダイスケリチャードさんが好きなアーティストの「MUCC」の曲では何が好きですかと言う質問には、 「いい質問! ありすぎて語り切れないんですけど、エピソードを交えて話すということで1曲選ぶなら、僕の作品集のタイトルにもなっている『気化熱』です。この曲は『夢を追って都会に出てきたけどダメで、地方に戻りたい』って嘆いているとも取れる曲なんです。でも僕は夢をかなえることができた、この1冊からさらにのし上がっていくんだという思いを込めて、タイトルに使わせてもらいました」。

そのほか、個人企画として、ダイスケリチャードさんが事前に大量にガチャガチャで購入してきたカプセルトイをプレゼントするコーナーが開催されました。事前に開封はせずその場で開封し、本人が欲しいもの以外は会場にプレゼントするという企画で、「エジプトの秘宝」や「UMA大全」、「指寿司」、「黒部ダム図鑑」、「いもむしマスコット」などなど、さまざまなカプセルトイが会場に抽選でプレゼントされました。 「当たった人、いらなかったら友達にあげてください(笑)。一応おまもりというか、運だけで生活をしている私の、ちょっとした気持ちがこもっております」

終始なごやかなムードに包まれてイベントは終了。ダイスケリチャードさんのテクニックを身近で見られ、普段の声を聞ける盛りだくさんの会となりました。

ILLUSTRATION Exhibition SESSION 公式サイト(外部サイト)

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