FUN'S PROJECT INTERVIEW


FUN'S PROJECT INTERVIEWではクリエイターの方々に独自インタビューを行い、未来のクリエイターの指針になるべく創作の原点や作品への思いを熱く語っていただきます。

#006 作画監督 小西賢一さん2019.06.27

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まずは粘り強くやりぬくという姿勢さえあれば、一定の所までは技術もついてくる。

五十嵐大介のマンガ作品を原作にした劇場版アニメ『海獣の子供』。
この作品は渡辺歩監督を中心に、久石譲が劇伴を、米津玄師が主題歌を担当。ヒロインの安海琉花を芦田愛菜が演じるなど錚々たるスタッフ/キャストで、海と空と生命をテーマに「少女と2人の少年(海&空)のひと夏の体験」を綴った作品として話題を呼んでいます。

そして、この作品において高い評価を得ているキャラクターデザイン/作画表現/演出の責任者を務めたのが、元スタジオジブリのアニメーターで、『耳をすませば』の「カントリーロード」の演奏シーンを担当した他、『ホーホケキョ となりの山田くん』や『かぐや姫の物語』、今敏監督の『東京ゴッドファーザーズ』、そして渡辺監督との『ドラえもん のび太の恐竜2006』など多くの作品で原画/作画監督を担当してきた小西賢一さん。

今回は小西さんの仕事場であるSTUDIO4℃にお邪魔して、『海獣の子供』での工夫や、アニメーターとして大切にしていることをうかがいました。


Text:Jin Sugiyama Photo:Shuya Nakano Edit:Takuro Ueno (Rolling Stone Japan)

小西賢一

1968年6月23日生まれ。1989年にスタジオジブリに入社。アニメーターとして『耳をすませば』(1995年)、『もののけ姫』(1997年)などに参加し、高畑勲監督の『ホーホケキョ となりの山田くん』(1999年)で作画監督を務める。以降はフリーとなり、今敏、宮﨑駿、高畑勲といった巨匠たちの下で見応えある仕事を多数手がけている。作画監督としての代表作に『東京ゴッドファーザーズ』(2003年/キャラクターデザインも)、『劇場版 鋼の錬金術師 嘆きの丘の聖なる星』(2011年/キャラクターデザインも)、『かぐや姫の物語』(2013年)など。 渡辺歩監督とは『ドラえもん のび太の恐竜2006』(2006年/作画監督)でタッグを組んでいる。

『海獣の子供』の
「描き方」について

『海獣の子供』は作画表現の素晴らしさも話題を呼んでいますし、作品自体のテーマとしても、生命の誕生にまつわるような、とても壮大なものになっていますね。


そうですね。ただ、「生き死にの話」って一見難しいようでいて、誰もが考えるテーマでもあると思うんです。実際、生と死はみんなが経験することで、難しいんだけれども難しくない、身近なテーマを扱った作品でもあって。今回映画にする際には琉花目線のお話になっていますが、そうすることで結果的に子供も「生と死」について考えざるをえない作品になっているという意味でも、渡辺監督が上手く表現されているように思いました。

小西さんは今回キャラクターデザイン/作画監督/演出でかかわっていますが、『海獣の子供』には線画っぽいタッチの絵が出てきたり、アニメ表現っぽいセル画のような絵が出てきたり、CGで表現されたパートが出てきたりと、様々な手法がひとつになっているのも特徴のひとつです。この方向性自体はどんな風に出てきたアイディアだったのですか?


描きによる手法の決定は、僕にゆだねてくれていた部分ですね。渡辺監督の場合、絵コンテはとても濃厚な押しの強いものなんですが、それ以外の部分はとても柔軟な方なんです。各部署の「その人がどう絵コンテを解釈するのか」ということを可能な限り尊重してくれる感覚があるのです。劇中の魚のシーンに関しては、「手描きよりもCGの方が向いているだろう」という判断もあり、それを前提に作業がはじまりました。

ただ、それがスタートではあったものの、魚たちは原作でも人間と同義のキャラクターとして描き出されているので、すべてCGにしてしまうと、原作の魅力を表現することにならないのではないかという気持ちもありました。そこで、一部手描きの作画も混ぜたり、カットごと3Dに対して修正の絵を入れたりもしています。

手描きならではの「ゆらぎ」のある線を加えることで、原作の魅力も損なわないようにしようと考えていたのですね。


そうですね。また、手描きとCGを混ぜる際に両者が乖離しないようにするためには、細かい作りこみが必要になるため、自分の作画感覚として「いいね」というものが出てくるまではOKを出さない感じでしたね。苦労もかけましたが、例えば海面の小波の表現などは、昔ながらのセル表現ではなく、CGI監督の秋本賢一郎さんが当初から提案してくれた表現がそのまま生かされています。結果的に画面に関して評判をいただけたのは、彼らの頑張りのおかげですね。

たとえば、本来海中には、泡や塵の粒々がたくさんあります。その粒を表現するときに、最初はただの真ん丸のパーティクルだったものに対して、不満を表明していたのですが、もっと重要な事があるので棚上げ状態になってたんです。こちらの顔色を察してか(笑)後半に向けて、自主的にグレードアップしてくれていたのです。

そうしたCG班の努力と手描きの作画ならではの魅力とがひとつになって、『海獣の子供』ならではの、見とれてしまうような映像表現が出来上がっている、ということですね。つまり、五十嵐さんの原作に感じる魅力や、そこから受け取るイメージを表現するためには、実は原作と同じことをしていてはたどり着けないものがある、ということですか。


原作は描線によってクジラの巨大感、空気感、光を表現している訳で、色までも感じさせるかのようなイメージ力で、白黒の世界だからこそ想像させる力を纏うんですね。アニメでは同じものを描いたつもりで色までつけられるのに、「感じ」が激減してしまうことに呆然としてしまうのです。その「イメージ」にいかに近づけられるのか、でしたね。海も様々な顔がある訳で、難しかったのは少し荒れた海というか、海面がうねりの重なりのように見せたい場合などは、大枠を線で作画する必要がありました。海を表現するならば大荒れの海なども出てきてほしかったですが、それは叶いませんでしたね。

あと、魚たちが海面に出てきたときに湧き立つ白波に関しては、手描きで表現しました。海中は3Dで表現し、海上に出たら手描き作画を基本にしつつ、あとは臨機応変ですね。「3Dで上手くできなかったら描く」と決めてました……(笑)。

(笑)。『海獣の子供』という作品は、海の描写が多い作品ではありますが、物語としては海だけの話ではなく、「空から落ちてきた隕石が海に衝突し、そこから生命が生まれた」という地球の創世記を連想させるような、「空」「海」「命(人)」のつながりを描いた作品にもなっていると思います。海以外の表現については、どんな工夫をされたのでしょうか?


琉花が雨の中自転車で走っているシーンは、カットごとに雨つぶの見え方を変えたりとか、琉花を取り巻くイワシの群れの動きや処理にも難航して試行錯誤を重ねました。

キャラクターデザインの工夫、
印象的なシーンの裏側

今回の劇場版アニメでは、琉花のキャラクターデザインが原作よりも幼く見えるように工夫されたそうですね。


実は今日、キャラデザの設定画を持ってきたんですが(と言って設定画の最終版を見せてくれる)、最終版ではよりおでこを出して、小柄にして、手足も細めに設定しています。これは原作とも少し変えたいんだろうなという監督の意向を絵コンテから受け取りまして、琉花に関しては監督の琉花像を大切にしようと思いました。

自分としても少し他の子より未熟な印象というのはしっくりきたので。年齢的には思春期にあたる三人ですが、空は大人、海は子供、に対して中間に位置するのが琉花というか、そこら辺の構図としては原作よりわかりやすくなってますよね。琉花は二人との出会い(物理的には隕石を飲み込むことによって)によって変化しているはずですが、事後の見た目は変えてません。ED後は1年後なので変わってますけどね。

なるほど。海や空のキャラクターデザインについては、どんな工夫をされましたか?


五十嵐キャラの顔は非常にリアルなところがありますから、それをそのまま作画に反映すると、怖くなったり崩れやすいんです。キャラ表の時点で、五十嵐さんも気になったのか、「もうちょっとアニメに寄せてもらった方がいいんじゃないか」と提案いただいて。それについては非常に納得したので意識したんですが、同時に、アニメ表現に寄せすぎると、原作の最大の魅力と言っても過言ではない「五十嵐さんの絵の雰囲気」が失われてしまいます。

そこで、監督が描かれた絵コンテのバランスもふまえて、原作の絵の魅力を可能な限り伝える方法を考えていきました。

『海獣の子供』には、画面として魅力的なシーンが多くあると思うので、印象的なシーンについても、いくつか制作時のことを思い出してもらえると嬉しいです。まず、冒頭の琉花が両親と水族館で水槽を眺めて、ジンベイザメが海中を昇っていくシーンはどうでしょう?


あのアヴァンタイトル(オープニングに入る前のプロローグ部分)は元々、原画担当になっていたのですが、結局レイアウトまでが自分で、キャラに関しては林佳織さんと板垣彰子さん、そして琉花の手に集まってくる魚たちは白井孝奈さんがすごく頑張ってくれました。アヴァンは作品の方針を提示するためにも大事なものですし、手で描くぞという意気込みを最初に伝えるためにも、大変でもやるしかない、という判断でした。

そしてもうひとつ印象的だったのは、作品の後半に登場する“祭りの本番”です。


前半の海くんが隕石を飲み込むまでは作画の素材と撮影処理が入り乱れて、処理に関しては自分も具体的な事まで把握している訳ではないのです。監督のイメージに沿うよう何度もやり取りをしましたね。作画だけでも大変なのですが、色彩、画面設計なしには成立しないのです。後半の海中は3Dで魚群の躍動感を細かい部分まで表現してくださいました。宇宙人になった海くんは、内宇宙の素材と分解していく銀河の動きは作画なんです。

また、“祭りの本番”の中でも特に印象的だったのが、作品のクライマックスに当たる琉花と海がもみ合うように昇っていくシーンでした。


あの部分はもう、作画が大変過ぎて……(苦笑)。実は、当初予定していたものから欠番が出てしまっているんです。もともとあのシーンには、もっとカットが追加される予定でした。ああいうヘビーなカットは、原画さんの技術が物を言いますので、非常に上手くやってくれたと思います。結果的に様々な人の作業になっていて、本当にみんなの共同作業で、最後の総力戦のような感覚だったと思います。あのシーンもそうですが、『海獣の子供』は、一度観て「ああ、終わった。スッキリした」と言えるタイプの作品ではないですよね。難しくて当たり前の作品なので、何度も観ていただくと、どんどん魅力が伝わると思うし、考えも深まると思います。

たとえば、僕自身、最後のシーンで海面に空が映っていることの意味や、空くんと出会った岩場だということもわかっていませんでした(笑)。何度も観返してもらえると嬉しいですし、1回目で終わりにさせないためには絵や音の力が貢献できると思うので、それが相まってループしたくなるものになっていてくれたらなと。

アニメーターになったきっかけ、
その楽しさとは?

小西さんがアニメーターを志したきっかけはどんなものだったのでしょう? 小さい頃からアニメは好きだったものの、それほど熱心にアニメーターになろうと思っていたわけでもなかった、というお話をされていたのを見たことがあります。


僕は本当に、凡庸な人間なんですよ。世代的にはアニメブームの影響をどっぷりと受けているので、当時は多くの人が、深さの度合いはあれどもアニメ作品に影響を受けていましたし、アニメがよりどころになっている人も多くいたと思います。僕はまさに、そのひとりでしかなかったということですね。実際、中には10代のうちから実際の作業について理解を深めている方がいた中で、自分はそういうタイプでもありませんでした。大学に進学してからも、自分としては何をしていいのか分からない状態で。

当初はアニメーターの専門学校ではなく、四年生の大学に行かれたそうですね。


そうです。とりあえず行くしかない、と(笑)。でも行ってみたときに、「このままでは耐えられないな」と感じたんです。そのとき、自分に残っていたもの、自分が好きで執着してきたものは「アニメかな…」ということになって。今思えばギャンブルもはなはだしい話ですが、僕の大学時代はちょうど宮崎アニメも台頭しはじめていた頃で仕事としてのあこがれも強まり、アニメの専門学校に行くことを決めました。そこに通っている間に月刊アニメージュにスタジオジブリの新人募集要項が掲載されたのです。「これは受けるしかない」と。

そして、見事合格されたわけですね。


確かに受かりはしましたが、感覚としては、拾われたようなものだったと思います。あのとき何で拾ってくれたのかというと、これは予想でしかないですが、宮崎駿さんをはじめとする方々が、「単純に絵が上手い」とか、「技巧的に優れている」とかいう基準だけで判断する人たちではなかったからなのかな、と思います。何か本質のようなもの、その奥を見ようとするというか…。本当にラッキーでしたし、素直に感謝しかありません。

当時の僕は絵も下手でしたし、アニメの作り方もまだ知らない真っ白な状態でした。ただ「気分を出す」という所に少し引っかかりがあったくらいじゃないかと。

その「気分を出す」ということは、第一線で活躍されている今も大切なものだと思われますか?


思います。今考えてみればですが、それはずっと自分の中で根っこみたいなものなので。自分の場合、そんなに特徴のあるアニメーターではないんですよね。個性やスタイルにどうしても目を奪われてしまいがちですが、大元にそれがあるかどうかです。そして「楽しく」やれるかどうかとか。

自分の場合どんな地味なカットでも「気分を出す」ために楽しめるというか、逆に作業になってしまうと苦痛です。この仕事は個人作業で完結できないので、人にチェックを受けて秤にかけられなければならず、海獣のような作品だとなおさら楽しむのが難しい敷居の高いものになりがちで、のびのびできなくなっていったりするのですが。。あまり自分のスタイルはこうです、と決めたくもないんですよね。

決めた方がいいんだろうなというのもわかってはいるのですが。何か型を作ると逆に閉じ込められてしまう気もして。百面相みたいに毎回色を変えてしまえるのがアニメの面白い所でもあるから。一貫しているのはどんなスタイルの作品でも「気分を出す」ことであり、それが楽しい訳です。

今の小西さんをつくったという意味で、他に思い出深い過去の作品はありますか?


僕は主に劇場アニメを担当していることもあってひとつの作品にかかわる時間が長いので、本当にすべての作品が重要なのですが、強いて挙げるなら、まずは『耳をすませば』の「カントリーロード」の演奏シーンですね。あれは(月島)雫の声を担当した本名陽子さんが実際に歌う映像を参考にして描いた特別なシーンで、バイオリンの演奏部分も実際に弾いてもらった映像を見ながら作っていきました。そうやってリアルなものに触れながら作り上げたあのシーンは、色々な気づきを得るのに1つのステップだったと思います。

他には、作画監督でかかわった『ホーホケキョ となりの山田くん』で、田辺修さんや橋本晋治さん、濱洲英喜さんの仕事に触れたことにも感化されました。もちろん、それは『もののけ姫』で宮崎駿さんと初めて原画マンとしてお仕事したときもそうですし、高畑勲さんと一緒に仕事をした事も今の僕の根幹となってます。今敏さんと『東京ゴットファーザーズ』を作れたのも一生の宝です。すべての仕事に育てられてきたんだと思います。

アニメーターというお仕事には、どんな楽しさを感じていますか?


自分ではお芝居はできないけれど、2次元のキャラを通して芝居ができる所でしょうか。普通ですけど。これは作画監督として原画さんの絵をチェックするときも同じです。「この人、こんなふうに動かすんだ」というように、作品の血肉となる可能性を感じる仕事をしてくれると、とても嬉しくなります。あとは、作品が出来上がったときの快感も癖になるものです。終わるまでは、ただただ苦しい(笑)。作業自体は睡眠もとれず、ルーティーンになりますし時間との戦いもあります。でも、出来上がって、絵が動いて音が入ったときに、カチッとひとつはまるというか。

多くの人の力が集まったときに、ものすごいものになるという楽しさでもありますね。


そうですね。だから、自分がかかわった作品を観るのも、すごく好きです。もちろん、自分自身に関しては毎回「もっとできたはずだ」という心残りもあるのですが、完成までの苦しさがあったからこそ、喜びもひとしおですね。

これからアニメーターを目指す方々に一言いただけますでしょうか?


僕が主に担当してきた劇場アニメの場合は、通常だと作画期間1、2年とか。『海獣の子供』だと4年もかかっているので、ひたすら忍耐の仕事でもあります。なんということもない日々が延々と続くので、今回の現場でも考えすぎて悩んでしまう人が少なくありませんでした。でも、そうやって苦しい時期をしのんだり、いかんともしがたい大きな壁にぶち当たるという経験は長い目で見るとすごく大事なんです。ですから、まずは自分が「やるに値する」と思える作品に出会ったら、覚悟をもってのぞんで欲しいのです。

今の時勢もあってか、自分の置かれている状況を環境や条件の責任にしがちな傾向も感じたりするのですが、仮にもプロフェッショナルとして自立しているつもりなら、結局は力で示すしかない世界です。上手くできなければ、それは自分の責任として受け入れないと。あれこれ考える前に少しでも上達するしかないんですね。力を手に入れないと発言にも説得力が生まれない。まずは粘り強くやりぬくという姿勢さえあれば、一定の所までは技術もついてくるのがこの仕事でもあるので頑張って欲しいですね。

【タイトル】

『海獣の子供』

【公開表記】

2019年6月7日(金)全国ロードショー

【原作】

五十嵐大介「海獣の子供」(小学館 IKKICOMIX刊)

【キャスト】

芦田愛菜 石橋陽彩 浦上晟周 森崎ウィン 稲垣吾郎 蒼井 優 渡辺 徹 / 田中 泯 富司純子

【スタッフ】

監督/渡辺 歩 音楽/久石 譲

キャラクターデザイン・総作画監督・演出/小西賢一

美術監督/木村真二

CGI監督/秋本賢一郎

色彩設計/伊東美由樹

音響監督/笠松広司 プロデューサー/田中栄子

【主題歌】

米津玄師「海の幽霊」(ソニー・ミュージックレーベルズ)

【アニメーション制作】

STUDIO4℃

【製作】

「海獣の子供」製作委員会

【配給】

東宝映像事業部

【映画公式サイト】

www.kaijunokodomo.com/(外部サイト)

【映画公式twitter】

@kaiju_no_kodomo(外部サイト)

©2019 五十嵐大介・小学館/「海獣の子供」製作委員会

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